迎え


祖父母に手を引かれて帰る間、私達は不思議と一言も交わさなかった。
普段はぶらぶらと歩きながら商店街で買い物をして帰ったり、夕焼け雲の形を何かに例えて笑いあったりと会話が絶えなかったというのに、今日はまるで何者かに追われているのかのような速度でただ足を進めて真っ直ぐに家に帰っていくのだ。
ぼんやりとした疑問は浮き上がっても、見上げた先の二人の顔は怖いほどに真剣味を帯びていて。結局、私は家に着くまで口を噤んでいる事しか出来なかった。

不思議な出来事は更に続く。
普段であれば巫女舞いの練習で流した汗をさっぱりと洗うために祖父と風呂に入り、その間に祖母が夕飯の準備に勤しんでくれる。なのに、今日は一人で冷水を浴びなさい、と言われたのだ。
「名前ちゃんはまだ小さいから一人でお風呂に入っては駄目だよ、危ないからね」と口酸っぱく繰り返していた彼らが何故、頑なに一人で入らせようとするのか、そして更に温かいお湯を使わずに冷水を浴びろと強調するのか。流石に納得できなくて、黙って祖母の顔を見ていると困ったように笑いながら「身を清めるには冷水と決まっているから」と訳の分からない説明をするだけだ。

結局、逆らい続ける事も出来ずに冷たい水を浴びて汗を流した。私がこっそりとお湯を使わないように、風呂場の扉のすぐ向こうで祖父が見張るという徹底ぶり。時折「ちゃんと洗えているかい」「お股の間も綺麗にするんだよ」なんて気恥ずかしくなる言葉を掛けられながら何とか洗い終わって脱衣所に出ると、何故かいつものパジャマではなく白い着物を着せられる。

「おじいちゃん、今日は何でお着物なの?」

今度は我慢する前に口をついた疑問には、祖父は「必要だからだよ」と答えただけだった。



慣れない着物で動きにくいし、冷たい水を浴びて体が震え始めている。温かいご飯を食べて今日は早く眠りたい。
そんな私の願いも虚しく、食卓に並べられたのは見慣れない形の瓶と小皿のようなものだけだ。

「これ、なあに?」

「瓶子とお猪口だよ。名前ちゃんは今日はこれしか口にしてはいけないんだ」

聞き覚えのない名称はともかくとして、今日はこれしか飲めないなんて酷すぎる。練習で体はくたくたで、空腹の虫も鳴いているのに。思わず喚き出す私をよそに、祖母は慣れたような手つきで瓶子の中身をお猪口に注いで手渡してきた。仕方なく受け取った瞬間、一気に鼻を通り抜ける独特の香り───これは、お酒だろうか?

「お神酒と言ってね、とても有難いものなんだよ。嫌がらずに飲みなさい」

拒絶する前に強要され、更には私が口をつける瞬間を今か今かと見つめる二人の視線が痛いほどに突き刺さって。息を止めて一気に飲み込むと、反射的に胃液ごと逆流しそうになって慌てて