おまけ(2/2)

「よーお!ケータ!遊びに来たぜ〜!」
「うわっエンマ大王!?」
「うわわまた来ちゃったんですか!?」


うんがい鏡から突然にゅるりと出てきたエンマ大王に、景太たちは一同に目を丸めていた。
しかしエンマ大王の目的は彼らではない。七海(とチョコレート)である。


「七海はいるか?今日バレンタインデーなんだろ?チョコもらいに来たんだ!」
「はあ!?チョコだって?」

*
当然ながら、そのセリフを聞いた景太はあからさまに顔を歪めた。だがしかし、それにひるむエンマ大王ではない。
回りくどいことも嫌いだから、直球で聞いてしまう。「七海のチョコが欲しいんだって!どこにいるんだ?」
景太ははあ、とため息をつくと、ウィスパーに顎でしゃくった。どうやら自分で説明したくないらしい。突然振られたウィスパーは当然、「ちょ、ケータくん!?」と冷や汗を流している。「ウィスパー、任せたニャン」とジバニャンも背中を向けて丸くなってしまった。

何だ、まどろっこしい!


「おい、七海は?あとチョコ!」
「ええ〜っとですねえ、エンマ大王様…大変言いにくいのですが」


ウィスパーが揉み手をしながら、しぶしぶと前に出てくる。
先ほどより汗がだらだらと流れている様子からみると、よほど言いにくいことなのか。「何だよ?」しかし聞いてみないことに、話は進まないのだ。
ウィスパーは揉み手を一度止めると、意を決したように息を吸った。


「バレンタインデーは昨日でうぃっす」
「は…なあにい!?」


目を四方八方に泳がせるウィスパー。そんなの聞いていないぞ!*


「バレンタインデー、昨日なのか!?」
「ええ、はい。今日は2月15日ですから…その、昨日でうぃっすね」
「何だよ〜〜!!猫きよは今日だって言ってたぞ!?」
「それ、誤情報ですね…」
「何なんだよ〜〜〜!」


がくがくがくとウィスパーを揺さぶる。「えええエンマ大王様ご勘弁を〜〜!」目を回す勢いだったが、ふと思いついたひらめきにエンマ大王は手を止めた。


「ま、一日くらいずれてもいいや!で、七海はどこなんだ?」
「ええ、っと、今日はバイトでうぃっす…」
「バイト〜!?何だ、あいつ働いてんのか?」
「ええ、まあ。でも、その、大王様。またまたひっじょ〜に言いづらいんですけれども」
「何だよ?」
「えーっとですね。あの〜その〜」
「何だよ、はっきり言えよ」
「姉ちゃんはチョコくれないよ」


そこに割って入ってきたのは、業を煮やした景太だった。何だ、説明したくないのではなかったのか。
ウィスパーを掴んでいた手を離して、景太に向き直る。景太は顔を俯かせていた。


「どういうことだよ?」
「姉ちゃんはね…姉ちゃんは…」


そしてきっとエンマ大王を睨んでこう言い放った。


「バイトで忙しいからって作ってくれなかったうえに自分だけ友達から一杯チョコもらってたんだからー!!」


なん…だと?


「エンマには俺の気持ちわかる?毎年ちゃあんと手作りのチョコもらっていたのに、ある日突然くれなくなったこの悲しみ!しかも姉ちゃんは姉ちゃんで友達から一杯もらったとか言って、紙袋一杯のチョコを俺に自慢してくるこの悔しさ!さらにチョコをせがんだら、仕方なくくれたのが、たまたまバックに入っていたチョコボーというこの哀れさ!」
「俺っちはチョコボーで満足ニャン」
「ジバニャンは黙ってて!」


睨まれたジバニャンは再び丸くなった。景太の目には涙が浮かんでいる。


「俺だって、俺だって姉ちゃんからの手作りチョコ欲しいし!『ケータ今年も大好きだよ』って言われたいし!なのに言ってもらえないこの悲しさ!!ねえ、わかる!?俺の気持ちわかる!?エンマ大王〜!!!」


今度は景太がガクガクとエンマ大王を揺らしにかかってくる。泣き叫ぶ景太の頭頂部を見ながら、「あ、これやっぱりもらいに来なければ良かったかも」と思ったエンマ大王なのだった。