もしもウィスパーが黒幕だったら(1/2)

※もしもの話




──暑い。まるで砂漠の上でも歩いているようだ。

そんなことを思いながら、じんわりと滲む汗を拭って、私はバイト先へと向かっていた。5日間の連続勤務が終わる今日は、即ち、夏休みが終わる日でもある。長くて短い夏休みは、もうすでに思い出になりつつあった。

宿題は終わっているし、今日のバイトが無事に終われば、明日はまた高校へ通う毎日になる。楽しみだなあ。久しぶりに会う友達は皆元気だろうか。

──それにしても、暑い。

額から汗が流れそうになり、慌ててハンカチで拭う。照り返しで僅かに視界が歪んでいた。
去年の夏はこんなに暑かっただろうか。

額に手をかざすようにして、照りつく太陽を見上げる。そこでふと感じたのは。

──前にもこんなこと、なかったっけ。

夏休みの最終日、バイトへ向かう私。暑くて汗が止まらなくて、思わず太陽を見上げる私。

──気のせいか。

夢か何かで、同じような光景を見たのかもしれない。

そうやって沸き上がった既視感と、わずかな胸騒ぎに気づかぬ振りをして、私はバイト先へと急いだ。そう、これはきっと気のせいなのだと言い聞かせるように。

終わらない夏が繰り返しているなど、このときの私は、思いたくもなかったし、思わないようにしていたのだった。