HELLO!(2/2)
「驚かせてごめんね。兎ヘルメットくん」
「ミーは兎ヘルメットじゃないダニ!ミーの名前はUSAピョン!」
「USAピョン、かあ。私は七海って言うの。よろしくね」
私に驚いて尻餅をついてしまった黄色い兎ヘルメット、もといUSAピョンを引っ張りあげて、私は握ったままの手を軽く上下させた。少し力が強かったのか、USAピョンがガクガクと揺れてしまう。「あ、ご、ごめんね」と謝れば、ヘルメットを押さえながらも「気にしてないダニ」と返事があった。
よく見ると、彼はとてもかわいい姿形をしている。猫、犬、と私の近くには可愛い妖怪がたくさんいるけれど、兎は初めてだ。これは新ジャンルの登場である。
私は自他共に認めているが、可愛いもの、特に小動物が大好きなのだ。
可愛い。すごく可愛い。
「ところでダニ!!何でミーが見えるダニ?!妖怪ウォッチ持ってないダニね?!」
USAピョンを「可愛いなあ」と見下ろしていた私だが、その言葉にはっと我に返った。あまりの可愛さにぼんやりしてしまっていた。
「あ、私ね、昔から『見える』体質みたいで」
「見える体質、ダニ?」
「うん、妖怪ウォッチがなくても妖怪の姿が見えるんだよね」
弟は妖怪ウォッチを持っているけど。でもそこまでは話さなかった。取り立てて説明する必要までないかなと思ったからである。
「今までいろんな妖怪を見てきたけど…そう言えばUSAピョンは何の妖怪なの?」
「ミーはメリケン妖怪ダニ。ある人を探して、先日U.S.A.からジャポンに来たばかりなんダニ!」
「へえ、そうなんだ。遠路遥々すごいねぇ」
「そ、そんなことないダニ!」
誉められて恥ずかしいのか、USAピョンは体をくねらせる。もっと誉めてほしいとでも言いたげなチラチラとした視線を感じて、私は思わず笑ってしまった。素直じゃないなあ。ツンデレなのかな。
「なっ!何で笑うダニ?!」
「あはは、ごめんね。可愛いなあと思って」
「かっ、かわ?!」
「うん、可愛いよ。女子は皆可愛いもの好きだから」
思わず頭を撫でれば、ヘルメットの無機質な感触がする。しかしUSAピョンは可愛いと言われたことが気に食わなかったらしい。むっとした顔をすると、「嬉しくないダニ!」と言った。
「ミーは格好良いほうがいいダニ!」
「そっか。ごめんごめん」
彼に出会ってからこの数分間、何だか私は謝ってばかりな気がする。苦笑しながらUSAピョンの頭から手を退けると、一瞬残念そうな目をしたUSAピョンと目があった。が、それには気付かない振りをした。これ以上可愛いと言い続けていたら、本格的に怒らせてしまうかもしれない。
それに、そんなにのんびりとしている時間もないのだ。
私はバイト先に向かっている途中なのだから。
「さて、と。私はそろそろ行くね」
「あ、」
もう少し彼とお話ししてみたいところだが、バイトに遅刻してしまうのはよろしくない。
折り曲げていた膝を伸ばして立ち上がる。こうして見下ろすとUSAピョンはとても小さかった。うちのジバニャンや、コマさんたちと同じくらいだろうか。
持っていた鞄を肩にかけ直して、「気を付けて帰るんだよ」と手を振る。
何か言いたげなUSAピョンだったが、「あ、ありがとうダニ」と呟いて俯いてしまった。
「それじゃ、」
「あ、あの!七海!」
「うん?」
「な、何でもないダニ!」
意を決したように引き止めて、結局何でもないと言う。彼が何を言いたいのか私にはわからなかったが、何となく素直になれないその心情は悟って、もう一度その低い位置にある頭に手を置いた。
今度はその手を嫌がる様子はなかった。
「私ね、さくらニュータウンのアッカンベーカリーでバイトしてるの。今度遊びにおいでね」
「こっそりパンをご馳走してあげる」そう言った私に、USAピョンはパッと顔をあげた。
「い、いいんダニ?!」
「うん、もちろん!」
今度は満面の笑みを浮かべて、USAピョンが見上げてくる。そのあまりの可愛さに、私の胸がきゅーん!となってしまったのはもちろん、言うまでもないことだろう。
こうして、私はメリケン妖怪USAピョンと出会ったのだった。そしてそれは私にとって、新しい妖怪たちとの出会いの始まりでもあったのである。