ある星を目印にして(1/2)

「あれ、USAピョンどこ行くの?」
「ギクッ」

声に出た。
ゆっくり振り向けば、今の今までパソコンの画面に夢中になっていたイナホがこちらを向いている。「今ギクッて言わなかった〜?」訝しげに目を細める彼女に、どうしてこういうときに限って勘がいいのかと舌打ちをしたくなる気分だった。

しかし、ここで気取られてはいけない。全力で誤魔化さなければ。

「な、何のことダニ?ミーは別にギクッとも言っていないし、怪しい動きもしてないダニよ?」
「いやいや十分怪しいでしょ。USAピョンさっきから目が泳いでますけど」
「ギクッ」
「あ、またギクッて言ったー」

日本では、こういうとき墓穴を掘ったと言うらしい。

USAピョンがおかれている状況は、まさにそれである。喋れば喋るほど、その穴は深くなっていくような気さえする。「怪しいなあ。どこ行くのよ?ねえ、ねえ?」今の今までパソコンにかじりついて、こちらのことなど気にもしていなかったくせに。
セラピアーズの新作アニメへの興味はどこへ行ったのか。

イナホがじりじりと距離を縮めてくる。

──このままでは「バレて」しまう。

USAピョンは逸らしたくなる目を堪えて、近づいてくるイナホをぐいっと見上げた。予想外だったのか、イナホの動きが止まる。
じーっと見つめて深呼吸。

「今日は、メリケン妖怪の、会合があるんダニ!」

噛まずに言い切った自分を誉めてやりたかった。
「じゃ、ミーは急ぐから」とあくまで「焦ってます」という雰囲気を出さずに扉を開ける。そして何も言わないイナホを残して、静かにその扉を閉めたのだった。

部屋を出て数秒、USAピョンは扉に体をつけて中を伺った。今のところ、イナホが追いかけてくるような気配はない。
あるはずのない心臓の部分を押さえてもう一度深呼吸する。

「あ、危なかったダニ…」

きっとイナホは信じてくれたのだろう。もう一度扉に耳をつけ、動きがないことを確認して扉から離れる。念のため気を引き締めて向かわなければ、と浮き足立つ気持ちを無理やり押さえつけて歩き出した。

今日は勇気が出ずに行けていなかった場所へ、絶対に行くと決めたのだ。

USAピョンがイナホに嘘をついてまで目指すのは、アッカンベーカリー。先日顔見知りになった人間─七海─のもとだ。



「…怪しい。これはイナウサ探偵社としてビシッと解決せねば」

もちろん、部屋の中で静かに決意するイナホがいることを、知る由もなく。