ぜんぶキラキラ

学校の帰り道のことである。

家に向かって歩いていると、どこからともなくウィーーンという機械音が聞こえてきた。どこかの家で掃除でもしてるのかな。平和だなあ。そう思っていたのだが。

「おーい!七海〜!」
「…え?!コマさん?!」

声のする方を振り返れば、そこにはコマさんがいた。ただのコマさんではない。円形のお掃除ロボットの上に座ったコマさんである。

「え、何、ちょ、コマさん?!何それ?!」
「えっ?これズラ?これは妖怪クリーナーズラ!」

心なしか、コマさんが乗ってる円形のお掃除ロボットも挨拶をするように左右に動いた。妙な既視感。ちょっとかわいいし。いや、それよりも「なぜこんな道端で?!」。

「オラにもわからないズラ!けど、お散歩中に見つけたから乗ってみたんズラ!」

「快適ズラ〜!」と、コマさんがその場でくるりと回る(回ってるのは妖怪クリーナーだけど)。そう言えば、テレビで猫がお掃除ロボットの上にのって寛いでいるのを見たことがあったのを思い出した。今のコマさんはまさにそれだった。

「七海は学校の帰りズラ?」
「あ、うん。そうなの。これからバイトなんだ」
「相変わらず忙しいんズラね〜。学校のあとにお仕事なんてえらいズラ!」

うんうん、と感心したように腕を組んで首肯くコマさん。今度はまるでお父さんのようだ。ああ、可愛い。コマさんと会うと可愛いしかない。女子高生たるもの、可愛いものには弱いのだ。「可愛い」だけで会話できそう。

「そうだ。七海にこれあげるズラ!」
「え?何々?」

そんな可愛いコマさんにニヤニヤしていると、彼はモゾモゾと下げていたポシェットを開いて中から何かを取り出した。そして「手を出すズラ〜」と促される。反射的に手を出すと、「それ」がころりと転がった。

「さっきこの妖怪クリーナーが拾ってくれたんズラ!いつも頑張っている七海へのご褒美ズラ!」

それは、綺麗な水色のセロファンに包まれているあめ玉だった。「水色だからきっとソーダ味ズラ!」そういって、にこにこ笑うコマさん。何て可愛いんだ。そして私への気遣いはもはや神対応とでも言えるだろう。嬉しい。嬉しすぎる。

…だけども、だ。
これ、道端に落ちてたやつだよね?!

「本当はコマじろうにあげるつもりだったんズラけど…遠慮なくもらってほしいズラ」
「そ、そっかあ」

照れた様子のコマさんに、私の顔はひきつってないだろうか。一応、衛生面気にしてしまう。だって私パン屋(のバイト)だから!
でも私のためを思ってくれているコマさんの気持ちをむげにすることはできなかった。それに、単純に「ご褒美」が嬉しい。「いつも頑張ってるご褒美」だなんて、いつぶりだろう。成長するにつれてご褒美なんてどんどん遠退いていくから、認めてもらえるだけでとても嬉しかった。

「ありがとう、コマさん」
「えへへ。どういたしましてズラ!」

もう、妖怪クリーナーが拾った道端に落ちていたものでも、なんだっていいや。
私へのご褒美をきゅっと握りしめる。一瞬その場で食べてみようかなとも思ったけれど、そこはさすがに踏みとどまった。食べずに飾っておくことにする。

「それじゃあオラはもう行くズラ〜」
「うん。私もバイト行ってくるね」
「行ってらっしゃいズラ!頑張ってズラ〜!」

コマさんは手を振ると、くるくると回りながら私とは反対側の道と進んでいった。時々方向転換して数秒止まってるところをみると、やはりあれはお掃除ロボットなのだと実感する。あっちこっち寄り道する姿は可愛くて。

「あっ。写真撮っておこう」

鞄から携帯を取り出して、カメラを起動する。シャッターを押したけれど、そこに写ったのは何もなく。

「あれ?!あ、そっかコマさん妖怪だからか!」

うっかり彼らはこの世にあらざるものだということを思いだし、一人がっかりする。まあ、でもコマさんの可愛い姿を見れただけでもラッキーだったと思おう。
写真には納められないけど、じっくり記憶に刻んでおこうと思い直し、私はしばらくコマさんの後ろ姿を見送ったのだった。