蜘蛛の赤い糸(1/2)
雪奈さんよりリクエスト
「赤い糸」続き
「あの糸を使ったのか」
薄暗い廊下を進む女郎蜘蛛の背後から、この屋敷の主──土蜘蛛が声をかけてきた。
「何のことかしら」足だけ止めて、振り向かないまま女郎蜘蛛は惚けてみせる。彼には意味がないのはわかっていたが、素直に認めてやるつもりもなかった。
だが、土蜘蛛も女郎蜘蛛の性分はわかっているから、再び問いかけてくる。「蜘蛛の糸を使ったのか」と。
「あれを巻いただろう、七海の小指に」
「さあ、どうかしらね」
「…惚けるのもいい加減にしろ。吾輩が知らぬとでも思うたか」
全く、これだから堅物は。
心の中で悪態をつき、振り向く。土蜘蛛は静かにこちらを見ていた。
「ご名答。巻いたわよ。あの子の小指にね」
「…やはりな。そのまま喰らうつもりか」
七海はケータの姉だぞ。
土蜘蛛の声に怒気が孕む。彼から発せられた殺気が、女郎蜘蛛の肌を掠めた。
「いやぁねぇ、気が短いって。だからモテないのよ」
「女郎蜘蛛!」
「怒鳴らないでくれる?別に私はあの子を食べるつもりないわ」
「…あの糸は本来、お前が次に喰らう人の子に印をつけるものだったではないか」
「そうねえ。昔はそんなことしてたわね」
ぺろりと舌を動かしてみれば、土蜘蛛はさらに顔を歪ませた。「お前は…」ああ、もう面倒くさい。早くあの子のもとへ行きたいのに。
「…食べないわよ。それは誓う」
「ではなぜ」
「単純にあの子は私のものって意味よ」
反論しようと口を動かす土蜘蛛との間合いをつめて、胸ぐらをつかんだ。予想外だったのか、容易く間合いを詰められた土蜘蛛が、ぐっと言葉を飲み込む。
こうなったら仕方がない。
「先に言っておくけれど…いくら大将のあなたでも、七海に手を出したら許さないわよ」
「女郎蜘蛛、」
「あれは俺のだ」
果たしてこの牽制が通じるか。
土蜘蛛の瞳が見開かれるのと同時に、掴んでいた手を離した。「それじゃ、私は用事があるから」ヒラヒラと手を振り、歩き出す。
今度は背後から、声がかかることなどなかった。
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