街中が輝いて見えました



(轟)



−−−12月24日。


雪が降ってホワイトクリスマスになるかもしれない、なんて言われていたクリスマスイブは、雪が降るどころかここ一週間の中で一番の暑さを記録していた。この気温じゃ雪なんて降らなさそうだ、と空を見上げてからスマホに視線を落とす。


あの日緑谷に背中を押され、俺はなまえに連絡をした。が、彼女から返事が返ってくる事は無かった。何日経っても既読すらつかないメッセージを見る度に心臓が強く締め付けられる。


−このまま会わない方が良いのかもしれないと、何度も思った。なまえは別に勘違いをしているとかではなく、俺に愛想を尽かしただけかもしれない。他に好きな男が出来たのかもしれない。


でも、会いたい。
声が聞きたい。
顔が見たい。

なまえに触れたい。


一緒に居た頃のメッセージや着信履歴を指でなぞりながら、彼女の事ばかり考えている自分が居る。なまえと出会うまでは自分がこんなにも女々しい男だとは知らなかった。……やはり、あの日手を離すべきでは無かったのだ。傷つく事になっても、傷つける事になっても、彼女をこの腕の中に閉じ込めておくべきだった。


どこで、何を間違ったんだ?


微笑み合って街を歩く恋人達を眺めながら、その姿に自分となまえを重ねてしまう。もう一度あの小さな手を握る事が出来たら、もう二度と離さないのに。


冬の香りを吸い込んで、なまえとの会話を思い出す。なまえは冬が好きだと言った。特に12月−−−クリスマス・シーズンが1年の中で最も好きなんだと、ニコニコ笑いながら話していた。


『わたしね、12月の街の雰囲気が好きなの』
『……雰囲気?』
『冬ってなんだか寂しい感じがするけど、12月は街が一気にクリスマスムードになってイルミネーションが始まったり、どこに行ってもクリスマスソングが流れてたりするでしょ?歩いてるだけで楽しくならない?』
『……気にした事なかったな』


なまえが言った通り、12月の街は賑やかだ。聞き覚えのあるクリスマスソングは耳を澄ませなくても聞こえてくるし、街を彩るイルミネーションは煌々として確かに美しい。


−−−気が付くと俺はなまえが働いているカフェの前に立っていた。賑わう街の中で、人気の無いカフェはしんと静まっている。


''改装工事の為、休業中''


「……、」


ここに来てもなまえには会えない。分かっているのに足を運んでしまう。

このカフェで店員として働くなまえに、自分でも気付かない内に恋に落ちていた。声を掛ける事も出来ずに見つめるだけの日々は、あの日偶然ぶつかった事で終わりを告げたのだ。


名前を呼ぶと恥ずかしそうに頬を染める。火傷跡に触れて、まるで自分が''痛い''みたいな顔をする。水族館で子どものようにはしゃぐ。小さな体で俺を受け入れて、ぎゅうと抱き締めてくれる。


見つめているだけでは知る事が出来なかったなまえが俺の中に沢山存在している。どのなまえも愛おしい。誰にも渡したくなんか、ない。



「−−−……」



そんな事を考えながら歩いて辿り着いたのは、なまえと偶然ぶつかったあの場所。この曲がり角でぶつからなければ、鞄が入れ替わらなければ、彼女と俺はきっと他人のままだった。


あの出来事は偶然だったが、確かに運命だったと今でも思っている。


この道を真っ直ぐ行くと、都心に広がる大きな公園がある。広大な公園を彩るイルミネーションは、それを楽しむカップルや家族連れで賑わっていた。自動販売機で缶コーヒーを買って、賑わっている場所からは少し離れた場所にぽつんと置かれたベンチに腰掛ける。


メッセージアプリでなまえとのトーク画面を開き、メッセージを打ち込んでいく。……夜になると流石に冷えるな。マフラーを口元まで持ち上げて、熱のこもった息を吐いた。


『XX公園のクリスマスツリーの近くにあるベンチで、待ってる』


−−−これで、最後にしよう。


少し雲行きが怪しくなって来た空を見上げ、缶コーヒーのプルタブを開けた。