世界は苺色に染まる:泡瀬
(泡瀬)



(アイツどこ行っちまったんだ?もうすぐ最終下校時刻なのに、鞄も置きっ放しだし……)

教室に荷物を置きっ放しにしたまま、いつまでも戻って来ない物間を探して校内を歩き回る。ここにも居ない、ここにも……どこ行ったんだよ、マジで!連絡が取れない物間を心配した拳藤に頼まれて仕方なく探してたけど、こんなに見つからないとは思ってなかった。もしかして入れ違いで教室に戻ってるパターン?連絡が来てるかもしれないと思い、立ち止まってスマホを取り出す。…………ん?少し遠くの方から喋り声が聞こえて、思わず耳を澄ました。片方の声に酷く聞き覚えがあったのだ。


どう聞いても物間の声……だよな?


声のする方向に歩いて行くと、見慣れた後ろ姿と、見覚えの無い女生徒が視界に飛び込んで来た。


「物間!」
「っ……あ、泡瀬?」
「はー、やーっと見つけた……お前返信くらい返せよなー。鞄置きっ放しで居なくなるから拳藤が心配してたぞ」
「……ッうわ、通知がすごい事に……」
「…………で、誰この子?」


物間がスマホに気を取られている間に、隣の女生徒に視線を移す。この制服は普通科だ。いつの間に普通科女子とお近づきになったんだ?この男は。


「あっ、普通科のみょうじなまえです!……もしかしてB組の?」
「そ、俺は泡瀬!泡瀬洋雪。物間と同じ1B、宜しくな!みょうじは物間の友達?」
「ッお前ら何勝手に自己紹介して……」
「物間くんとはさっきお友達になったばっかりなの。ね、物間くん」
「ん゛ん゛ッ……」
「……何変な声出してんだ物間……」
「か、勝手にと、とと、友達とか言わないでくれるかなぁ!?」
「……だめだった?」
「〜〜〜ッ……!!」


照れ隠しにも負けず、眉を下げて物間を見上げるみょうじ、強い。あの物間が翻弄されているのが面白くて、つい二人を見守ってしまう。


「だ、めじゃないけどさ……」
「……へへ、良かったあ」
「ッふ、不用意に近付くなって言ってるだろ!……ったく、……何見てんだよ泡瀬!」
「いや、面白いなーと思って」
「面白がるな!僕はコイツが近付くとなぁ、心臓が痛くなるんだよ……ッ」


顔を真っ赤にしながら自身の胸元をぎゅっと握り締める物間。おいおいマジか。みょうじに近付かれると心臓が痛い?その症状はどう考えても恋です、本当にありがとうございました。……とか言ってみたが、本人は胸の痛みが恋心から来るものだとは微塵も思っていないようだ。「近寄るな、しっしっ」と犬にでも接するかのようにみょうじを遠ざけようとする物間に思わず「ブフッ」と吹き出してしまった。


「……何笑ってんだよ……!」
「っい、いや……ッふ、ははっ……」
「お前なァ……僕は真剣なんだぞ!?」


真剣だから面白いんだろ……。

と、そんな事とても本人には言えないけど。物間の新たな一面が知れて俺的にはわざわざ探しに来た甲斐があったなーって感じだ。


−だらだらと三人で話しながら校内を歩き、普通科のみょうじとは途中で別れた。最後の最後まで物間の体調を心配していたみょうじは、この少しの時間でも分かるくらい優しい女の子だった。ほわんとした笑顔。自然と心に入ってくる柔らかな声。別れたばかりなのにまた聞きたいと思ってしまう。……不思議な女の子だな、みょうじって。


そう感じているのは、隣を歩くこの拗らせ男も同じに違いない。みょうじと別れてからぐっと口数が減った物間は、スマホの画面をじっと眺めていた。−−−その画面に映っているのはメッセージアプリ。先程交換したみょうじのアイコンをぼんやり見つめているその瞳は、誰が見ても熱に浮かされていると思うだろう。



「連絡先交換出来て良かったな、物間」
「!ッ……僕はどっちでも良かったけど、みょうじが折角ってうるさいから……仕方なく、な……。っていうか何でちゃっかりお前まで交換してるんだよ!?」
「いいだろ、別に。普通科の事とか色々聞きたいし」
「…………」


じっとりとした視線を向けてくる物間は無視して、『気を付けて帰れよ!』とみょうじにメッセージを送る。すぐに既読がついて、ありがとうの返事と一緒に可愛らしいスタンプが送られてきた。このキャラ、すげーみょうじっぽいな。ひとり頬を緩ませていると、機嫌が急降下した物間に思い切り脛を蹴られてしまった。……ッこいつ、わざわざ探しに来てやった俺に何て仕打ちを……!!色々と文句を言ってやりたいが、何を言っても物間は聞く耳を持たないだろう。はぁ、と少し深めの溜息を吐きながら、前を歩く物間の背中を追う。


……ああ、既にみょうじの笑顔が恋しい……。