(切島)
俺もなまえも雄英高校の合格が無事に決まった。受かった俺達よりも互いの親がお祭り状態で「鋭児郎となまえの合格おめでとう会」と銘打った今日は飲めや食えやの大騒ぎだった。因みに開催会場は切島家だ。さっきまで好き放題大騒ぎしていたのに、大人は皆すっかり酔い潰れてしまった。……酷い惨状だ。誰が片付けると思ってんだよ、コレ。
「ふふ、皆寝ちゃったねえ」
「すげェ馬鹿騒ぎだったな」
「鋭ちゃんは楽しくなかった?」
「いや?ただお祝い会とか言いながら俺たちそっちのけで飲んでるからさ。なまえにも絡むし」
「わたしは鋭ちゃんママとパパに自分のことのように喜んでもらえて嬉しいよ」
空き缶や皿を片付けながら、なまえは「久々に鋭ちゃん家のご飯食べれたし、楽しかったなー」とへらへら笑っている。ったく、俺の気も知らないで。べろべろに酔った母親と父親は浮かれて『なまえちゃんならいつでもお嫁に来ていいのよ?』とか『いつ鋭児郎と付き合うんだ?』『鋭児郎にはなまえちゃん以外考えられない』だとか余計なことばかりなまえに吹き込んでいた。それになまえ側の親も便乗するから何度慌てて話題転換したか分からない。告ってもないのに振られるとか冗談じゃねェ。……俺は今の関係を''まだ''壊したくないんだ。
「ねえ鋭ちゃん、お母さんもお父さんもこのまま起きないだろうし、わたしも今日泊まっていくね」
「おう。もう遅いしな」
「うん。これ片付け終わったら一緒にお部屋行こっか」
みょうじなまえと俺、切島鋭児郎は所謂''幼馴染''というヤツだ。出会ったのは幼稚園の頃。家が近く、親同士が仲が良いというのもあって俺たちが仲良くなるのにそう時間はかからなかった。幼稚園、小学校、中学校と一緒で春からは高校も一緒だ。ここまで来ると運命に近いものを感じる……と思っているのは多分俺だけ。なまえにとっての俺はいつまで経っても''幼馴染の鋭ちゃん''でしかない。これは幼馴染として距離が近すぎるが故の悩みだ。まぁ、だからと言ってこのポジションを誰かに譲るつもりもねェけど。
俺の部屋で、俺のベッドに腰掛けるなまえに男らしくない、邪な感情を抱くようになったのはいつからだろう。壊したい。壊したくない。体も心もなまえが欲しい、自分の物にしたいっていつだって叫んでんのにどうする事も出来ない。当たり前のように向けられる笑顔を向けてもらえなくなる方がよっぽど怖いから。
「……あ!」
「うおっ!?どうしたなまえ!?何かあったのか!」
「ご、ごめん鋭ちゃん。 今ね、すっごく嬉しい連絡があって!それで思わず大声出しちゃった」
「出久くんって、前にも話したでしょ?」というなまえの言葉にギチギチと心臓が痛みを訴える。嫌だ。なまえの口から良く知りもしない男の話なんて聞きたくねえ。''出久くん''とかいう同い年の男は、俺の焦燥感の原因のひとつだ。なまえが昔から集めてるプロヒーローウエハースがキッカケで知り合ったらしく、連絡先まで交換して定期的に連絡を取っている。なまえが無邪気に''出久くん''の話をする度、会いに行くんだと笑う度、何度引き止めようとしたか分からない。……でも、出来ない。そいつの事を話すなまえは心の底から楽しそうなのだ。
「出久くんも雄英のヒーロー科、合格したんだって!受験の為にすごく頑張ってたみたいで全然連絡も取れてなかったから、なんか安心しちゃった。はぁ、自分のことみたいに嬉しいよー!」
「……そりゃ、良かったな」
「うん!あ、ヒーロー科ってことは鋭ちゃんと出久くん、同じクラスになるかもしれないね!」
「……」
「鋭ちゃん?」
「そんなに、そいつの合格が嬉しいのかよ」
なあ、俺の合格が決まった時、そんなに喜んでたか?なまえは俺よりもそいつと雄英に通える事の方が嬉しいんじゃねえのか?とても男らしいとは言えない、惨めな気持ちが次から次へと押し寄せて来る。口を開くと更に情けない言葉を吐いてしまいそうで、ぐっと唇を噛み締めた。
「……もう、鋭ちゃん」
「なっ……お、おい、なまえ」
「そんな顔しないの」
「っつーか何で抱き締めてんだよ!?」
「出久くんの話してからずっと険しい顔してるよ?よしよし、今日は鋭ちゃんの合格祝い会だったね、ごめんね」
「子供扱いすんなっ」
「鋭ちゃんのお祝い会なのに他の人の話をしたから拗ねちゃったんでしょ?」と楽しそうに笑ってるなまえに言いたい。そうだけどそうじゃない。色々と突っ込みたいが、背中に当たる柔らかい感触だとか間近に感じるなまえの匂いに全部吹っ飛んじまった。じゃれつくみたいに後ろから抱き着いて来たなまえの中身は子供の頃から変わらないのに、体は大人になり始めててそのギャップが正直ヤバい。
「うわあ、本当に筋肉ついたよね。腹筋とか胸筋とかすごい……」
「……くすぐってェ」
「合格に向けて頑張ってたもんね。格好良いよ、鋭ちゃん」
「…………おう」
「頑張ってる鋭ちゃんを見て、わたしも勉強頑張れたんだよ?だから、ありがと」
ぎゅう、と抱き締める腕に力が込められた。俺もその細っこい腕に触れる。あったけェ。なまえに触れるたび守ってやんなきゃ、と思わされる。雄英に入って、憧れのヒーローとしての第一歩を踏み出して。……焦燥ばかりしてる場合じゃない。見据えなきゃならないのはもっと強大なもので、俺に出来ることは鍛えて、強くなって、なまえを守れるヒーローになること。そしたら、なまえに自分の気持ちを打ち明ける勇気も出るんじゃないだろうか。
「なまえ……俺、頑張るから……ちゃんと、見ててくれよ」
「……」
「……なまえ?」
「……すぅ」
「……まさか、寝てんのか?」
マジかよ。俺の背中にぴったりと頬をくっつけて、なまえは健やかな寝息を立てている。……本当に男として見られてないんだな、俺。つーか無防備にも程があるだろ。はあと息を吐きながらなまえ、と声を掛けるも返事はない。抱き着きながら眠れるくらい心を許してもらえているのは嬉しいけど、俺もなまえも一緒のベッドで眠っていたあの頃とは違うことをそろそろ理解して欲しい。
微睡むなまえをそのままベッドに転がして、毛布を掛けてやる。乱れた前髪を撫で付けるとふにゃふにゃと笑うのが心臓に悪い。……なァこれ位は許せよ、なまえ。
額に軽い口付けを落として「おやすみ」と囁いた。