(緑谷)
今日は朝からずっとそわそわとしていた。試験が終わるまでは連絡を取ることすら我慢していた、なまえちゃんに会える日だからだ!お母さんにおかしな所がないか身だしなみチェックしてもらって(「もしかしてなまえちゃんに会うの!?」とすぐにバレてしまった。お母さんは一度連れて来てから、なまえちゃんがすっかりお気に入りなのだ)予定よりも早めに待ち合わせ場所に到着した。良かった、まだ来てないみたいだ。なまえちゃんいつも来るの早いからなあ。ふう、と息を吐いたと同時に「出久くん!」と後ろから声が掛けられて思わず変な声が出た。び、びっくりした……!ばくばくとうるさい心臓を宥めながら振り返ると、白いワンピースに身を包んだなまえちゃんが立っていた。か、可愛い!久々に見たなまえちゃんのあまりの眩しさに目が潰れるかと思った。
「ごめんね、驚かせちゃった?」
「ううん、大丈夫!……久しぶり、なまえちゃん!」
「久しぶりだねー出久くん!何か……がっしりしたね?」
なまえちゃんが「すごく逞しくなった!」と笑顔で褒めてくれて、喜びが込み上げる。誰に褒められるよりも彼女に褒められることが一番嬉しい。
「あ、お店向かおっか!受験中は遊びに行くのも我慢してたから、ヒーローショップに行けるのも久しぶりなの!」
「僕もだよ。買いたい物リストアップして来たんだ!」
「楽しみだねえ。……あ、出久くん」
「ん?」
「ヒーロー科、合格おめでとう!やっと直接言えたよー!」
「……ありがとう……!なまえちゃんもおめでとう!」
「へへ。ヒーロー科と普通科だけど、出久くんと同じ高校に通えるの凄く嬉しい!」
僕も同じ気持ちだ。4月からはなまえちゃんと同じ、ずっと憧れだった雄英のヒーロー科に通えるのだ!正直、今でもちょっとだけ夢を見ているんじゃないかと思っている。あのオールマイトの秘密を知って、個性を授かって、身体を鍛え上げて、試験に合格して。無個性だったあの頃からは考えられない。……ああ、そうだ。僕が無個性だと知っているなまえちゃんに何て説明しよう。なまえちゃんに隠し事をしなきゃいけないんだと思うと、オールマイトとの約束とは言え胸が痛んで苦しくなる。
「ヒーロー科って実技試験があるんだよね?やっぱり大変だった?」
「う、うん。聞いてた通り凄かったよ」
「そっかー……頑張ったんだね、出久くん」
「……なまえちゃん、僕ね、君に言わなきゃいけない事があるんだ」
「ん、なあに?」
「…………実は僕、個性が発現したんだ」
「…………へ?」
ぱちくりと目を見開いたなまえちゃんが立ち止まる。
「出久くんに……個性が……?」
「う、うん。……黙ってて、ごめんね」
「…………よ、」
「っ、……なまえちゃん?」
「良かったね出久くん!」
「わ、わああっ!」
勢い良く飛びついて来たなまえちゃんを受け止める。あわあわする僕の腕の中でなまえちゃんが「本当に良かった!」と笑う。涙目だった。……ああ、なまえちゃん、君は本当に……。つられるように僕も目が潤んだ。彼女と出会ってからいつも救われて来た。真っ直ぐで、純粋で、偽りのないその心。折れそうになった時何度励まされて来たか分からない。『個性があっても無くても、出久くんは出久くんだよ』と隣で笑ってくれるなまえちゃんが居たから僕は頑張る事が出来たんだ。
「ありがとう……なまえちゃん……」
「出久くんの頑張りや思い、ちゃんと届いてたんだよ。……ふふ、それにしても出久くんの個性は恥ずかしがり屋さんだね。今までずーっと出てこなかったなんて!」
「あはは、恥ずかしがり屋さんか。なまえちゃんらしい言い回しだね」
「ね、ね!どんな個性なの?」
個性やお互いの受験の時の事を話しながらお店までの道を歩く。なまえちゃんのころころと変わる表情や聞き心地の良い声、落ち着く優しい匂い。全てが僕を惹きつける。一緒に居るだけでこんなにも幸せな気持ちになれるのは、なまえちゃんだから。……ああ好きだなあ。
今日もまるでデートみたい(って僕は勝手に思っている)だけど、なまえちゃんが恋人だったら……って妄想しては一人で悶えてしまう。なまえちゃんのあったかい手を握って歩けたら、きっともっと楽しい。……は、恥ずかしくて実際はそんな事出来ないと思うけど。
「そういえばね、わたしの幼馴染も雄英のヒーロー科、合格したんだよ!」
「あ、''えいちゃん''さん!合格したんだ!おめでとう……!」
「ふふ、えいちゃんさん、って何だか面白いね。鋭児郎、っていうの。略して鋭ちゃん。同じクラスになったら宜しくね!」
「え、……っ、!?」
「鋭ちゃんも出久くんと同じでね、受験に向けて体鍛えてたから筋肉がすごいんだー!……出久くん?どうしたの?」
えいちゃん、って男だったのか!完全に女の子だと思い込んでた……。ていうか何で今まで気付かなかったんだ僕!?思い返してみれば、気付けそうな要素が沢山あるのに。思い込みって怖いや……。
「いや、僕なまえちゃんの幼馴染をずっと女の子だって勘違いしてたんだ。だから今ちょっとびっくりして……」
「確かに鋭ちゃん、って名前だけ聞くと女の子っぽいね……!ふふ、鋭ちゃんに女の子に間違えられてたよーって教えてあげなきゃ」
楽しそうに笑うなまえちゃんにちくんと胸に痛みが走る。さっきまでは近くに感じていたなまえちゃんが急に遠くの存在に思えた。……なまえちゃんは、いつも楽しそうに幼馴染の話をする。今までは女の子だと思って聞いてたけど、そうか……僕と同じ、男なんだ。
「……出久くん?お店はそっちじゃないよ。ここ曲がらないと」
「えっ、あ……ご、ごめん。ちょっとボーっとしてた……!」
「大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。ごめんね」
心の中でひとりモヤモヤとしている間に目的地のヒーローショップに到着していた。……今は考えるのやめよう。折角なまえちゃんと会えたんだし、考えたって仕方ないじゃないか。それに今彼女と二人でいるのは僕なんだ。余計なことは考えずにめいっぱい楽しもう。
「出久くん、見て!新商品いっぱい出てるよー!」とはしゃぐなまえちゃんに自然と頬が緩む。本当に可愛いなあ、なまえちゃんって。
「あっ、オールマイトの限定バッジ残ってる!もう絶対無いと思ってた……!」
「わ、良かったねー出久くん!わたしも欲しい物全部買えたよーっ」
「うん!僕も事前にリストアップしてた物はこれで全部かな……いつ来ても夢のような空間だなぁ、このお店」
「その気持ち分かるなぁ。何時間でも居られる気がする!」
買い物を終えて、その後の時間は近くのカフェで過ごした。
なまえちゃんと過ごしている時は、当たり前のように好きなものを共有出来る。ヒーロー好きのなまえちゃんは常に最新の情報を追っていて、僕が知らない情報も知っているから聞いていて凄く楽しい。それに僕が話す事も何でも楽しそうに聞いてくれるから、気がつくと話すつもりじゃなかった事まで話していたりする。なまえちゃんは聞き上手だ。
楽しい時間はあっという間で、気が付けばもう夕方。なまえちゃんは女の子だし、暗くなる前に解散することになった。
「出久くん、今日は本当にありがとう!」
「こちらこそ!なまえちゃんのお陰で楽しい一日を過ごせたよ」
「それはこっちの台詞だよー!もっと色々話したかったー!……次会えるのは入学式かな?ふふ、出久くんの制服姿楽しみだなぁ」
「っ……なまえちゃん、雄英の制服、絶対似合うと思う……!」
「見せ合いっこしようねっ」
「うん!……また連絡するね」
お別れを告げた後も、姿が見えなくなるギリギリまで何度も振り返って手を振ってくれるなまえちゃんに思わず笑みが零れた。
次に会う時はお互いに雄英生だ。色々と不安も多いけれど、なまえちゃんが一緒だと思うと頑張れる気がする。
……制服姿、本当に楽しみだなぁ。