「君には危機感というものは無いのか?」と私の前で仁王立ちをする降谷さんに「人並みにはあるかと思います」と返した私は何故か正座をしていた。フローリングで正座は中々堪えるものがある。足痛い。
私の答えに納得がいかなかったのか降谷さんは綺麗な顔をきゅっと歪めて私を見る。「君が寝たあと、悪いとは思ったが部屋の中を調べさせてもらった」と言う降谷さんに「まあ私が寝てた方が調べやすいだろうなと思って寝たので、別にいいですよ」と返せば「……君なぁ」と降谷さんが頭を抱えてしまう。
それから「僕が、君に危害を加える可能性だって十分にあっただろう。どうして、そこまで手放しに僕を信じられるんだ」と苦しげに眉間に皺を寄せた降谷さんに「推しだから?」と首を傾げてしまう。推しが目の前にいて困ってたら全人類助けると思うんだけど私だけですかね。
きょとんとした顔で首を傾げた私を見て降谷さんは、それはもう大きなため息を吐いた。「……君は、男を見る目が無いな」と肩を竦めて困ったように笑った降谷さんに「いやいやいやいや何言ってるんですか。降谷さんほど良い男はいないでしょ」と思わず待ったをかけた。
本人だろうとそこまで言われたら黙ってられない。降谷さんに手のひらを向けながらつらつらと私の降谷さんの推しポイントを語っていく。こんなの今から話してたら次の日の朝が来るよ、なんて思いながら話し始めてすぐに今度は逆に降谷さんから待ったがかかる。
「……分かった。分かったから、一旦止めてくれ」と口元を手で覆ってそっぽを向く降谷さんの頬が赤くなっていて思わずぽかんとしてしまう。「えっ……かわいい……」と呟けば「22の大人の男が可愛いわけないだろ」と赤い頬のままぼそりと呟かれる。
超レアスチルだ…と馬鹿なことを考えた私だったけれど、一つ聞き逃せない発言があった。「……22…?えっ今22って言いました?降谷さん今22なんですか!?」と声を荒げれば降谷さんは驚いたように目をぱちぱちと瞬かせてから「あ、あぁ…そうだが…」と返してくれる。
「〜〜ッい、今降谷さんがいた世界は何月何日ですか!?」と尋ねれば「何月って…10月だけど…」と返されてゾワリと鳥肌が立った。「ちょ、ちょっと待ってて下さい!!!」と降谷さんをその場に残して自室に引き返す。
本棚から本を取り出して中身を捲り、これも違うあれも違うと選別をすること数分。私が手にしたのは降谷さんの大切な同期たちの死に関わるお話が収録された巻だった。
「……これから貴方に話すことが、貴方の大事な人を守れる反面、貴方の身を危険に晒すかもしれません。貴方が聞かないと言うなら、私は…っ、なにも、言いません」と降谷さんの前でぎゅっと手を握り締める。
降谷さんの大切な同期たちは死を免れるかもしれない。けれど、もし。もしも、この選択のせいで、降谷さんの身に降りかかるはずじゃなかった危険が降りかかるとしたら。そう思ったら、何が正解かが分からなかった。
ズルい聞き方をしていると、思った。自分一人で責任を負わずに、彼にも責任を負わせようとしている。今この発言も間違いだったのでは無いか。ごくりと喉が上下して背中をつうっと汗が滑り落ちた。
けれど「僕の大事な人を守れるなら、聞かない理由は無いだろ」と真っ直ぐに私の目を見て言い切った降谷さんにやっぱりこの人が好きだと思った。つう、と涙を流した私を降谷さんが驚いた顔で見るから「なんでも、ないです。本当にこの通りになるとは限りませんし、備えあれば…くらいの気持ちで考えててください」と本を差し出せば降谷さんは恐る恐るそれを受け取って中身を見た。
そして、描かれた物語を見て言葉を失った。ついこの間まで共に過ごしていた彼らが死ぬなんて、思ってもいなかっただろう。「…君の世界では、このストーリーが真実なんだな…?」と私を見た降谷さんにこくりと頷く。
「…ありがとう。君が言った通り、備えあれば…だ。この物語が真実にならないよう、出来る限りのことはする」と言い切った降谷さんを見て「やっぱり、好きだなぁ…」と思わず言葉が漏れた。
ぽかんとした顔で私を見た降谷さんと目が合って、ようやく自分の発言に気が付いた。バッと口元を押さえて「……何でもないです」と首を横に降れば困ったような顔で「なら、いいんだ」と笑う。
きっと降谷さんのことだから色恋沙汰への発展なんて面倒だと思ってる。きっと私の発言もスルーしてくれるだろうと思っていたが正解だった。「それと、君に一つ頼みがあるんだが…聞いてくれるか?」と恐る恐る尋ねてきた降谷さんにきょとんと首を傾げる。
「はい、もちろん」と二つ返事をした私に降谷さんは安心したように緩く微笑んでから「元の世界に帰れるようになるまで、ここに置いてくれないだろうか。頼む」と静かに頭を下げた。
「ちょ、ちょっと待ってください!頭上げて…!」と慌てる私に「無理な頼みをしていることは分かってる。それでも、頼む。ここに置いてくれ」と更に深々と頭を下げた降谷さんに思わず悲鳴のような声が出てしまった。
「さ、最初からそのつもりでしたよ!!むしろこの状況で出ていかれる方が心配です!!」と声を荒げた私に降谷さんは再びぽかんとしてからくつくつと喉を鳴らして笑い出す。
「君は本当に危機感が無いな」とくしゃりと屈託の無い顔で笑った降谷さんが「ありがとう。少しの間世話になる」と柔らかく微笑んで頭を下げる。初めて見る表情に思わず目を見開いて固まりながら、もしかしなくてもとんでもないことに首を突っ込んでしまっているのではないだろうか、と心臓がバクバクと音を立てる。
突然始まった推しとの同居生活に耐えられる気がしなくて思わず天を仰いだ。