へんなゆめ、みただけ

かなり、インパクトの強い映像を見てしまった。起床、そしてグロッキーである。二日酔いと合わさって今の体調は最悪だ。「……きもちわるい」とベッドの中で体を丸めてみるけれど、その程度で良くなるはずも無い。そもそも昨日どうやって帰ってきたかもうろ覚えだ。

「昨日…どうしたんだっけ…」と思い返しながらふらふらとベッドから降りてキッチンに向かう。服も化粧も昨日のままだ。とにかく水を飲んでシャワーを浴びたい。ぺたぺたと裸足でフローリングを歩いてキッチンに向かえばリビングのテーブルの上に『鍵はポスト!起きたら連絡してね!』とメモがあった。

「……萩原さんたちに、送ってもらったんだっけ、」とうろ覚えの記憶を何とか手繰り寄せてから水を飲む。メモの通りに連絡をしようとスマホを開けば萩原さんと松田さんからメッセージが入っていた。『二日酔いなってない?大丈夫?』『なんかあったら連絡しろ』言い方は違えど、二人からの優しいメッセージにじんわりと心が暖かくなる。

『今起きました。昨日はご迷惑をおかけしてすみませんでした。色々ありがとうございます』と返信をして今度はシャワーを浴びるべく脱衣所へ向かう。今日が休みの日で本当に良かった。暖かいお湯を頭から浴びて、ぼんやりと先程見てしまった映像を思い返す。

「……ちょっと、インパクト強すぎたなぁ…」と込み上げてくる吐き気をぐっと飲み込む。萩原さんや松田さんの時は爆発する映像だったから直接誰かが怪我をする映像では無かった。けれど、今回はあまりにもリアルだった。耳を劈く破裂音と、胸元から溢れる赤色。色を失って、どんどん青くなる顔色。

ここまでリアルに、目の前で『生』が消えていく様を見るのは、初めてだった。忘れてしまおう、と頭を振ってシャワーを止める。ぽたぽたと髪の先から落ちる水をそのままにリビングへと向かえばスマホが着信を告げる。萩原さんからの着信に首を傾げながら応答すれば「あ、もしもし香澄ちゃん?具合どう?平気?」と優しい声が耳に響く。

「あ…へい、きです、」と掠れた声で返事をすれば電話の向こうの萩原さんが「平気な声してないんだけど本当に大丈夫?体調良くない?」と心配そうに声をあげる。「だ、大丈夫です。ちょっと、へんなゆめ、みただけで、」と口にしてしまえば、頭の中で再びあの映像が流れ出す。

二日酔いで体調が悪かったのも相まってひゅうっと呼吸が乱れて、視界が揺れる。「香澄ちゃん?大丈夫?」と電話の向こうから焦ったような萩原の声が聞こえてきて、大丈夫と答えようとした頭とは裏腹に「たす、けて」と小さな声が零れ落ちる方が早かった。

ハッと気付いて「あっ、や、ごめんなさ…っ!」と謝ったけれど電話の向こうの萩原さんに「今家にいるんだよね?すぐに行くから、待ってて」と電話を切られてしまい、もう弁解の余地は無い。サァッと血の気が引いて「ど、どうしよう…!」とリビングをうろうろ歩き回っていれば軽やかにチャイムが鳴る。

慌てて鍵を開ければ驚いた顔の萩原さんと目が合って「こら、確認しないで出ちゃダメでしょ。それにそんな薄着で…風邪ひいたらどうすんの。ほら、早く入って」と困った顔で背中を押される。「陣平ちゃんが色々買ってきてくれるって言うから、とりあえず髪の毛乾かして、服着て休もうね」と頭を撫でられてしまえば頷く以外の選択肢は無かった。
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