息、どうやってしてたっけ

頭の中で何度も流れ続ける鮮明な映像と、昨日の飲みすぎによる二日酔い。そして、萩原さんと松田さんに迷惑をかけていることへの罪悪感で今にも吐きそうだった。「あ、あの、ごめんなさい…っ、へいきなので、」と萩原さんに謝るけれど「そんな青い顔して平気な訳ないじゃん。今度は俺たちにも助けさせてよ、ね?」と頭を撫でられて「まずは髪乾かそっか。ドライヤーある?借りていい?」と優しく微笑みかけられる。

「あ、あります」と洗面所に置いていたドライヤーを持ってくれば「じゃあここに座って〜」と楽しそうな顔の萩原さんが私の後ろに立つ。「痒いとこあったら教えてくださ〜い。あ、あと熱い時も教えてね」と言いながらパチンとウインクをした萩原さんが私の髪の毛をゆっくりと乾かしてくれる。

ばくばくと大きく音を立てていた心臓が少しずつ穏やかになって、呼吸が落ち着いてくる。「香澄ちゃん髪の毛サラサラだね。なんのシャンプー使ってるの?」「あのオレンジ?のやつです」「あっ、それ最近よくCMやってるよね。へ〜こんなにサラサラになるなら俺も使おっかな〜」「萩原さんも、十分サラサラじゃないですか?」「いやいや香澄ちゃんには勝てないよ」とテンポよく続く会話が日常を感じさせてくれて、少しずつ気持ちも落ち着いてくる。

「よし、完了!乾きましたよ〜お客さ〜ん」と笑う萩原さんに「ありがとうございます」とお礼を言えば「いえいえ」と微笑みながら、私と同じように頭を下げてくれる。「松田が来るまでお喋りする?それとも、ちょっと横になる?」と気を使ってくれる萩原さんに「ちょっと、横になりたい…です、」と言えば「ん、了解」と優しく笑って背中を押してくれた。

萩原さんに背中を押されるまま自室のベッドに潜り込んで目を閉じるけれど、頭の中で流れる映像に不快感が込み上げる。必タヒに呼吸を押し殺して布団の中でぎゅっと手を握り締めて耐えていればもう一度チャイムが鳴る。ハッと目を開けて体を起こせば「多分松田だから、寝てていいよ」と私の頭を撫でた萩原さんが部屋を出ていく。

ぽつん、と一人になった薄暗い部屋の中でどくり、どくりと心臓の音が響く。暗い場所、胸から溢れる赤、耳を劈く破裂音。おかしくなってしまいそうだった。ふらふらとベッドから降りて部屋を出る。声が聞こえる方へ足を向けて、見えたのは萩原さんの大きな背中と驚く松田さんの顔。ほっと安心して息を吐こうとして、はたと気付く。

息、どうやってしてたっけ。気づいてしまったらもう遅い。ぺたりと座り込んで胸元の服をぎゅっと押さえる。くるしい。いきができない。やだ、たすけて。まるで自分の胸からも赤色が溢れている気がして、怖くて涙が止まらない。「っ、香澄ちゃん…!?」と焦った様子で私の隣に膝を着く萩原さんと「チッ、過呼吸か」と苛立たしげに舌打ちをした松田さんが着ていた上着を脱ぐ。

そのまま口元に上着が押し付けられて益々呼吸が苦しくなる。「ゃ…、んんっ、」と暴れるけれど「香澄ちゃん、大丈夫だから。ゆっくり息しよう。大丈夫だよ」と萩原さんに支えられて背中をさすられる。「吐くことに集中しろ。大丈夫だから、何にもしねぇよ」と私の口元に上着を押し付けた松田さんが胸元でキツく握り締められていた私の手を握る。

ぽろぽろと涙が零れて、余計に呼吸が荒くなる。どくりどくりと大きく音を立てる心臓から、赤色が溢れる。私も、彼と同じように、なる…?「っ、やだ、ひゅっけほ、しにたくな、やだぁ…っ、!」と頭を振ってばたばたと手足を動かす。焦ったような二人の声が遠くで聞こえて、ぐらりと傾いた体が倒れた。
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