せめてパーにしよう

「ほんっとにごめん…」と何度目かの謝罪を繰り返す萩原さんに「あ、いや…逆に、元気な姿を見れると安心すると言うか…本当に気にしないでください」とへにゃりと笑うことしか出来ない。あの松田さんですら「ちょっとでも気分悪くなったらすぐ言えよ。……チッ、アイツ何考えてんだ」と納得のいっていない様子で私の頭をぽんと撫でる。

松田さん、私の頭撫でるの癖なのかな。嫌じゃないからいいんだけど。萩原さんも松田さんも、あの日私が倒れたことを相当気にしてくれているみたいだった。今日、二人と一緒に会う予定の人たちは、私が倒れた映像の中に出てきていた人たちである可能性が非常に高いらしく、そのせいもあって二人は私がまた体調を崩してしまわないかを酷く心配してくれていた。

私としては萩原さんに伝えた通り、元気な姿を見れれば一安心だし、それで命が助かるのならそれが一番良いと思っている。だって、そう思ってなかったら萩原さんにも松田さんにも声なんてかけていない。「私、萩原さんと松田さんをナンパしたくらいですよ?それに昨日いっぱい寝たから大丈夫です!」と元気アピールをした私を見て二人の表情が緩む。

「香澄ちゃんは、ほんとに強い子だよね」と微笑む萩原さんに「えっ、喧嘩はあんまりしたことないんですけど…」と困惑しながら返せば「そっちじゃねーよ。ばか」と松田さんに頭を小突かれる。「えっ!?あっ言葉がってことですか!?」と二人を交互に見れば「あははっ!ほんっと香澄ちゃん可愛いなあ」と萩原さんが声を上げて笑う。何だよう…。

「これから会う奴らには一応お前のことは話してあるが、言いたくないことは言わなくていいし、お前が話したいこと、話せることだけ話せ」と松田さんが私を見るから不安になって「えっと…お二人のご友人ってことは、警察の方…なんですよね?こういうのって全部喋った方がいいんじゃないんですか…?」と首を傾げてしまう。

「ん〜…まあ正式な場での協力要請とか事情聴取みたいなものは全部話してもらわないと困るんだけど、今回はあくまでも非公式な場だから」と萩原さんが私の頭をぽんぽんと撫でて優しく笑う。「ちょ〜っと圧強めで来るかもしんないから、怖かったら遠慮なく言ってね」と冗談めかして言った萩原さんに肩の力がふっと抜けたのに「ちょっとだぁ?この間会って話した時点で警戒心バチバチだったじゃねぇか」と悪態をついた松田さんのせいでまた背筋が伸びる。

「だから俺らが一緒に来たんでしょ。大丈夫だよ、アイツらが噛み付こうとしても俺らがちゃんと守るからね」と言う萩原さんのせいで、まだ会ったことも無い二人への印象がどんどん悪くなっていく。「そ、そんな…誰彼構わず噛み付くんですか…」と小さく声を漏らせば「ぶはっ、あながち間違ってねぇな。俺も初めて会った時殴りあったし」なんて松田さんが言うから「わ、私殴りかかられても戦えませんよ!」と慌てて声を上げる。

「さすがにアイツもお前にいきなり飛びかかったりはしねぇだろ。逆にお前が先制攻撃でも仕掛けてやりゃいんじゃね?」と鼻で笑う松田さんに「で、できませんよう…」と肩を落としたのに「グーは止めようね。手痛くなっちゃうから、せめてパーにしようね」なんて萩原さんも言うもんだから再び声をあげる羽目になった。
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