普段優しい人は怒ると怖い

(Side:萩原)

気持ちは分からんでも無いが、俺は事前に伝えていたはずだ。 「俺言ったよね?一回倒れてるからあんまり詰めないでねって」と静かに諸伏ちゃんと降谷ちゃんを見る俺の目は大層冷たかっただろう。普段優しい人は怒ると怖い、の法則とはよく言ったものだ。

「……ごめん」と申し訳無さそうに頭を下げた諸伏ちゃんに対して降谷ちゃんは苦虫を噛み潰したような表情で「……悪かった」と謝った。「信じらんねぇ気持ちは分かるけどよ、実際俺ら二人は命を救われてんだ。お前らにはあっても、俺らには疑う理由がねぇんだよ」と香澄ちゃんの目尻に浮かぶ涙を松田が指先で拭う。

「…つーか、疑ってるのは香澄ちゃんの不思議な力の事じゃないんだよね、降谷ちゃん」と真剣な顔で言った俺に「は?どういう事だよ」と松田が眉間に皺を寄せる。「最初こそ非現実的な香澄ちゃんの力を疑ってたけど、今疑ってるのは香澄ちゃん自身って意味」とぬるくなったコーヒーが入ったカップを持って俺はため息を吐いた。

その言葉で意味を理解した松田が「はぁ…今度はそっちかよ。公安様は疑うことばっかで大変だな」と大きくため息を吐いてから、がりがりと頭を搔く。「彼女が限りなく白であることは分かってる。それでも、彼女がここまで僕らに伝えに来る理由が分からない。彼女にはメリットがないだろ」と降谷ちゃんが怪訝な顔をする。

その言葉に俺と松田は顔を見合せてから吹き出して笑ってしまった。「今のどこに笑う部分があったんだ」と益々怪訝な顔をした降谷ちゃんに「あっははは!そりゃそうなるよね!確かに俺も最初そう思った!」「開口一番今ナンパしてます!だもんな、コイツ!ハハハッ!そりゃそうだ!」と大笑いをする俺と松田の目には笑いすぎて涙が浮かんでいる始末だ。

「えっ、なんぱ…はい?」と目を丸くした諸伏ちゃんに「いやさ、俺も陣平ちゃんも街歩いてたら香澄ちゃんからいきなりナンパされたのよ」と俺が楽しそうに笑えば「俺たちに声をかける理由が見付からなくて、ナンパだ!つって」と松田も同様にあの日を思い出してクツクツと喉を鳴らして笑う。

「死ぬかもしれない人が目の前にいて、自分の言葉や行動で助けられる可能性が1ミリでもあるなら後悔したくないんだって言ってたんだよね」と香澄ちゃんの頬を撫でながら微笑む。今まで見ているだけだった。大人になって、できることが増えた。

そんな時に俺に出会って松田に出会った。自分にもできることがあるのだと、己の持つ不思議な力をちょっぴり好きになれた気がするのだと。そう言って、香澄ちゃんは気恥しそうに笑っていた。「コイツ、意外と頑固なんだよ。今回お前らに会うのも最初は止めたんだ。それでも行くって聞かなかった」と松田も俺と同じように笑みを浮かべながら香澄ちゃんの頬を指の背でそっと撫でた。

「俺らにとってはさ、大事な子なんだよ。だからさ、今回の話は無駄にしないであげて欲しい」と俺が頭を下げれば「これでヒロの旦那が死んだなんて言われたらマジでぶん殴るからな、ゼロ」と松田が降谷ちゃんを睨み付ける。

きっと、二人とも香澄ちゃんの言葉の全てを信じた訳では無いと思う。それでも、大切な友人である俺たちが大事に思う女の子を、二人とも無下には出来ない。優しい奴らだって、俺たちは良く知っている。「…ああ、ちゃんと活かしてみせる。絶対にヒロを死なせたりしない」と降谷ちゃんが真剣な瞳で頷いて「ちゃんと生きて、この子にお礼を言いに来ないとな」と諸伏ちゃんも優しく微笑んだ。
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