「本当に、ありがとう。君のおかげで俺は今もこうして生きてられる。感謝してもしきれないよ」と頭を下げた諸伏さんを前に「えっ、あっ、頭上げてください…!」と困った顔で背後の二人に助けを求める。助けを求められた張本人たち、萩原さんと松田さんはと言えば「折角だからお礼にめっちゃ高いものとかおねだりしちゃえば?」「もしくは顔面に一発かましてやりゃいいんじゃね?」と楽しげに笑っていて一切止める素振りを見せてくれない。
「さすがに4桁は待って欲しいけど、それ以外なら何でも。顔面も死ぬより全然マシ」なんて朗らかな笑顔で言ってのけた諸伏さんに今度こそ口から「ひ、ひぇ…」と悲鳴が零れる。「な、なんにもいらないです…!ほんとに…!顔も叩かないので頬をこっちにむけないでください…!」と慌てて萩原さんの背中に隠れれば諸伏さんが「あはは!本当に松田と萩原が言った通りの子だ」と声を上げて笑う。
言った通りの子って、何…?と首を傾げれば「素直で、真っ直ぐで、頑固な子って」と諸伏さんがくすくす笑いながら教えてくれるから「わ、わたし頑固ですか!?」とぎょっとして二人を見る。「頑固だね」「頑固だろ」と当たり前では?と言わんばかりの顔で同意する二人に「え、えぇ…」と困惑すれば「そういうとこが可愛いからいいの」と萩原さんがにこにこ笑いながら頭を撫でてくる。
「お前のそれで俺らは救われてんだ。胸張っとけ」と松田さんにもぐしゃぐしゃと頭を撫でられて髪の毛がばさばさになる。「松田、撫で方雑すぎだろ」と苦笑いをした諸伏さんが「直してあげる。ちょっと触るね」と私の頭に手を伸ばして、撫でつけるようにしてばさばさになった髪の毛を整えてくれる。
そのまま私の頭に手を置いて「本当にありがとう。何度言っても足りないんだ、ほんとに。こうやって、松田たちと一緒にいられるのも、笑えるのも、全部君のおかげなんだ。ありがとう、香澄ちゃん」と膝を折って私と目線を合わせた諸伏さんがふわりと微笑む。
「本当に、生きててくれてよかったです。萩原さんも、松田さんも、すごく心配してたから…皆さんが楽しそうにしててくれたら、それで十分です」とつられるように頬が緩んでふにゃりと笑みが零れる。そんな私を見てほんの一瞬目を見開いた諸伏さんが「君は…ほんとに、」と何かを言いかけた瞬間だった。
「諸伏ちゃん、嬉しいのは分かるけどさすがに近すぎ」と後ろから萩原さんの手が割り込んできて、私の体が後ろに引っ張られる。私と諸伏さんとの間にスペースが出来て、そのスペースに滑り込むようにして松田さんが入ってくる。おかげで誰の顔も見えなくなってしまった。
「おいコラ、諸伏。お礼がしたいっつーから会わせてやったんだろうが」「え〜?俺、お礼しただけじゃん?」「あぁ?ンな顔しといてよく言えたな」と始まってしまった言い合いにおろおろとしていれば「大丈夫大丈夫。アレくらいは通常運転だから」と私を後ろから抱えた萩原さんがけらけらと笑う。
「ほら二人とも〜香澄ちゃんが私のせいで喧嘩してるって怯えてるぞ〜」なんて言う萩原さんにぎょっとしながら「そ、そんなこと言ってないじゃないですか!ていうか、怯えてないです!」と慌てて訂正をするけれど振り返った松田さんと諸伏さんは楽しそうに笑ってて。
ちらりと背後に視線を向ければ、そんな二人と目を合わせた萩原さんも楽しそうに笑っていた。彼らの努力や、力があってこその今であることは間違いない。彼らは私を命の恩人と呼ぶけれど、私だけの力じゃない。でも、ほんの少しでも役に立っているのなら、それはきっととても幸せなことなんだと思った。