信じてくれてありがとう

私に会いたい人がいる、と萩原さん達に連れられてやってきたのは明らかに高級そうな完全個室のレストラン。こういうところに来るならそうと言ってください。私の場違い感がすごいじゃないですか。

「わ、わたし、この格好で平気ですか…?」と恐る恐る尋ねれば「俺も松田も普通に仕事用のスーツだし大丈夫でしょ」と萩原さんがケロリとした顔で返してくる。「スーツなら大体の所はOKなのでは…?」と首を傾げるけれど「別に個室なんだから何でもいいだろ。行くぞ」と松田さんがズカズカと中に入っていく。

通された部屋に入ると「急に呼び出してすまない」と既に来ていたらしい降谷さんが私たちを見る。「忙しいのは分かるけど本当にね?」「急すぎんだよ。連絡来んのが今日の朝って何だよ」「ははっ、悪かったって」と三人がわいわいする姿を立ち尽くしたまま見つめていれば「香澄ちゃん?こっちおいで」と不思議そうに首を傾げた萩原さんが手招きをする。

「あ、あの、私、本当にいていいんですか…?」と恐る恐る席に着けば「むしろ君に用があったんだ。急な呼び出しにも関わらず、応じてくれてありがとう」と以前会った時の剣呑さはどこへやら。穏やかな顔で微笑む降谷さんは、改めて見るととても綺麗な顔立ちをしている。

「いえ…っ、こちらこそ、こんな素敵なお店に招待して頂いて…」とカチコチになりながら頭を下げれば「そんな結婚の挨拶にでも来たみたいな」「ゼロが頑固オヤジか。納得させんのに骨が折れそうだな」「僕の目が黒い内にウチの娘はやらん」「ノリノリじゃん」と三人が私を見て楽し気に笑う。

「ふふ、」とつられるように笑みを零せば「…本当に、君のおかげだよ。君がいなかったら、僕は大事な友人も親友も、皆を失う所だった。先日の不躾な態度を取ってしまったこと、お詫びさせてくれ。本当にすまなかった」と深々と頭を下げられてしまい、目を見開いて固まってしまう。待って待って。

「ま、待ってください…!そんな、初めて会った人からあんなこと言われて、そうですかって言えなくて当然です…!むしろ、私の方こそ失礼なこと、沢山言っちゃってすみませんでした…!」と私も頭を下げる。萩原さんも松田さんも、すんなり受け入れてくれたから心のどこかで甘えみたいなものがあったのかもしれない。

会ったばかりで貴方は死にます、なんて失礼どころの話じゃない。怒鳴られたり殴られたりしても文句が言えないレベルだ。それを黙って最後まで聞いてくれた上に信じてくれたなんて、お礼を言いたいのは私の方だ。そう言った私に降谷さんは目を丸くしていて、一緒に来た二人も驚いた顔で私を見ている。

「降谷さんも、萩原さんも松田さんも、信じてくれてありがとうございます。本当に、皆さんが無事でよかった」と笑みが零れる。「君は、強いな。本当にかっこいいよ」と降谷さんが柔らかく微笑んで「礼を言うのは俺らの方だっていつも言ってんだろ」と松田さんが私の頭をぐしゃりと撫でる。

そっぽを向いた松田さんの耳が少し赤くなってて、ちょっと可愛い。ふふ、と笑っていれば隣に座っていた萩原さんが私の手をぎゅっと握る。「全部、香澄ちゃんのおかげだよ」と萩原さんの目尻がとろりと落ちる。「本当にありがとう」と祈るように私の手を握り締めて自分の額に押し当てる萩原さんに顔がぶわりと熱くなる。

その手を振り払うことも出来ずに固まっていれば「ベタベタ触りすぎなんだよ、お前は」と松田さんが助け舟を出してくれる。「え〜?だって俺たちの女神様だぜ?ちゃぁんとお祈りしないと失礼ってもんだろ。な?香澄ちゃん」とぱちりと綺麗にウインクを決めた萩原さんに「女神様なんて、そんな大層なものじゃないですよ…」と苦笑いで返せば「これだけの人間の命を救ってるんだから十分大層なものだと思うけどな」と降谷さんがクスクス笑って「胸を張っていい。君のおかげで助かった命は、確かにここにあるから」と手を伸ばして私の頭を優しく撫でてくれた。
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