出会って早々に「あ、」と声を漏らしてしまった。勿論それに気付かない萩原さん達では無いので「あれ、知ってるの?」ときちんと突っ込まれてしまい、その問いへの答えを口の中で転がした。「知ってると言うか、見たと言うか…」と言葉を濁せば「見たのか?コイツを?」と松田さんが驚きで目を見開く。
「いつ!?」とすごい勢いで聞いてきた萩原さんに「丁度、昨日…」とたじたじになりながら答えれば「詳しく聞いてもいいか?」と松田さんが申し訳無さを滲ませながら聞いてくるから「勿論です」と頬が緩む。萩原さんや松田さんの大事にしている人を救えることも、私に映像の中身を語らせることに対して何も悪いことなんてしていないのに申し訳無さそうな顔をしてくれる優しさも、全部嬉しかった。
だから私は「気を悪くしないでくださいね」と前置きをしてからゆっくりと話を始めた。とは言え、詳細に語るためには詳細に思い出す必要がある。諸伏さんの時ほどでは無いにしろ、車に撥ねられて死ぬ瞬間を何度も頭の中で思い出すのは堪えるものがある。気丈に振舞いたいのに、震える指先と唇、そして言葉。体から熱が引いていくのが分かって、話し終えた時には呼吸が浅くなっていた。
「は…っ、は、は、」と荒い呼吸をする私に「ごめんね、香澄ちゃん。ほんとにごめん。嫌なこと何度も思い出させて、本当にごめん」と萩原さんは泣きそうになりながら私を抱き締めた。背中を撫でる手が、耳から聞こえる確かな鼓動が、ゆっくり熱を分け与えてくれるようで少しずつ呼吸が落ち着いていく。
「ごめ、んなさい、」と謝れば「お前が謝ることじゃねぇだろ。俺らがお前の優しさに甘えて、利用してるんだ。俺らの方が殴られたって、おかしくねぇことしてんだぞ」と罪悪感でいっぱいです、と言わんばかりに眉間に皺を寄せた松田さんが私を見る。
「え、へへ…じゃあ、おたがいさまですねぇ」と頬を緩ませれば、私を抱き締める萩原さんの手にぎゅっと力が入って、松田さんは驚いたように目を見開いてから優しく目尻を下げた。そんな中で「コイツらからソレの話は大体聞いてた。…ッ本当に、ありがとう」と先ほど紹介をされた伊達さんが頭を下げた。
「3~4日後に、張り込みの予定があったんだ」と険しい顔で告げられた事実にハッとする。「そこだとは言えねぇが、一緒にいた奴とおおよその時間帯を考えると可能性は高い。暫くの間、車には十分に気を付けるよ。嫌な思いをさせて悪かった」と大きな伊達さんの手が私の頭をぽんと撫でる。
「いえ、私の方こそ、こんな突拍子も無い話…」と申し訳なさ気に眉を下げれば「突拍子があろうと無かろうと、俺の大事な同期が救われてんだ。感謝はすれども、それ以外なんてある訳ねぇだろ」と伊達さんがニカッと笑う。つられるようにふにゃりと頬が緩んで「ありがとう、ございます」とお礼を言えば「これもお互い様、だな」と伊達さんは私の頭をわしわしと撫でた。
「伊達さんを私に紹介した理由ってコレだったんですか?」「まさか!違う違う。今回はちょ〜っと女の子側の意見が欲しくてさ」「女の子側?」「ああ。コイツ、近々彼女にプロポーズすんだよ」「えっ!?そうなんですか!?」「で、こっからが本題だ」「こっから!?私が入るスペース無くないですか!?」
「あるある。今こそ香澄ちゃんの出番よ」「え、ええ…役に立てるかな…」「あー…実はな、プロポーズのシチュエーションを相談したくてな」「!?そ、それ責任重大じゃないですか!?」「女子の意見っつったろ。参考にするだけだ。気負いすぎんな」「それ絶対松田さんのセリフじゃないですよね???」