知らない男から思い切り肩をぶつけられて傾いた体が支えられて「おいお前!…チッ、逃げ足だけは早いな…。君、大丈夫だったか?」と綺麗な顔を歪めて舌を打った女性は、それはもう綺麗な人だった。
ぽかん、と固まる私に「どこか痛めたか?」と心配そうに眉を下げる顔にどこか既視感を覚えながら「だ、大丈夫です…!すみません…!ありがとうございます!」と慌てて頭を下げれば「なに、構わんよ。君に怪我が無くて何よりだ」と柔らかく微笑みかけられて、ぽっと頬が熱くなる。
それにしても…この人の顔どこかで見たことがある気がするんだよなぁ。どこだったっけ…と考えてハッと気が付く。「あ、萩原さん」と声に出てしまった名前に、目の前の女性が驚いたように目を見開く。「あっ、やっ…!ごめんなさい!知り合いに、とても似ていて、すみません…!」と慌てて頭を下げれば「もしかして、研二の言っていた香澄ちゃんって言うのは君のことか?」と尋ねられ、驚きで今度は私が目を見開く番だった。
「ああ、すまない。自己紹介がまだだったな。私は萩原千速。愚弟が世話になった」と笑う目元が萩原さんとそっくりで「え、ぇぇえええ!?」と驚きで声を上げる。萩原さんってお姉さんいたの!?ていうかすっごい美人!と荒ぶる内心を抑えることもできずに「あ、いえ、こちらこそ…!萩原さ、じゃなくて研二さんにはお世話になってて、あのお姉さんだとは知らなくて、大変な失礼を…!」と支離滅裂な言葉を並べれば「はははっ!私が一方的に知っていただけだ、気にするな」と楽しげに笑ったお姉さんが私の頭をぽんと撫でる。
「研二には何度も恩人に挨拶をさせろと言っていたんだがな、頑なに会わせてくれなかったから後で押しかけてやろうと思ってたんだ。ここで君に出会えてよかったよ」と笑うお姉さんに「そ、そんな…!私こそ、お会いできて嬉しいです」と釣られるように頬を緩めれば「なるほどな。研二が私に紹介しなかったのはそういうことか…」と納得したような声が聞こえてくる。
きょとりと首を傾げれば「何でもないよ。私とも、是非仲良くしてくれ」と優しい顔で再び頭を撫でられて頷かない訳が無かった。「それで?連絡先交換して帰ってきたの?」と不貞腐れた顔で片肘を付いた萩原さんがじぃっと私を見る。
「はい。千速さん、すっごいカッコよくて優しくて、あんな女性になりたいなって」と千速さんを思い出しながら思いを吐き出せば「絶ッッッ対ダメ。香澄ちゃんは香澄ちゃんのままでいて。お願い。一生のお願い」と萩原さんは両手で顔を覆ってしくしくと泣いてしまう。
「だから会わせたくなかったんだよ…」と呟いた萩原さんに首を傾げれば「独り占めしたいだけだよ。女々しい男の嫉妬」と困ったように笑った萩原さんが私の頬を指の背でするりと撫でる。びくりと肩を跳ねさせれば「俺とも一緒に出かけよーね」と悪戯っ子のような顔を向けられて揶揄われたと気が付いた。