俺、そんなに頼りない?

「すみません」と背後からかけられた声に振り返って目が合った瞬間に、ダメだと思った。知らない人、初めて会う人、まだ何もされていないのに、恐怖で体が震えた。私と目が合って弧を描いた男の口元を見た瞬間に踵を返して走り出した。

偶然近くまで来ていた喫茶店に転がり込めば「いらっしゃいま…ッ香澄さん!?」と安室さんの目が見開かれる。勢い余ってべしゃりと情けなく転んで膝を付けば「香澄ちゃん!?どうしたの、そんな急いで…」とたまたまお店に来ていたらしい萩原さんが駆け寄ってくる。

「なんっ、なんでも…っ、ない…っ、」と首を横に振ると萩原さんは眉間に皺を寄せて「何でもない訳無いでしょ」と私の背中を撫でる。視線を感じてハッと振り返るけれど既に閉じられた扉に遮られて外の様子は見えない。「外に、何かあるんですか?」と扉を開けようとした安室さんに「ッだめ…!!」と声を荒げてしまう。

「だめ、あけないで」と驚いた顔をする安室さんを見上げれば「分かりました。一先ず奥の席に行きましょう。怪我の手当もしないといけないですし」と安室さんが私に手を差し伸べる。「っへ、へいきです…!か、かえりますから、おきになさらず…!」と首を横に振った私を萩原さんが強引に抱き上げて、奥の席に向かって歩き出す。

「萩原さん!?や、やだ、おろして…!」と抵抗するけれど、さすが現役の警察官。びくともせずに、ふわりと奥のソファ席に下ろされてしまう。席に座る私の前にしゃがみ込んだ萩原さんが「香澄ちゃん。俺、そんなに頼りない?」と私の手を握り締める。

「な、なんですか、急に…」と戸惑いながら返せば「どう見たって平気じゃないよね。大丈夫じゃないよね。何でそれで俺たちを誤魔化せると思ったの?」と萩原さんがゆっくり顔を上げる。いつもの優しい顔では無く、始めて見る怖い顔だった。

「こんなに泣きそうな顔して、こんなに震えてる香澄ちゃんを、はいそうですかって帰せる訳無いじゃん」と困ったように眉を下げた萩原さんの手が、そっと頬を撫でる。「ここには僕たちしかいません。何があったのか、教えてくれませんか?貴方の力になりたいんです」と安室さんが私の背中にそっとブランケットをかけてくれた。

温かさと、優しさに、もう我慢なんて出来なかった。ぽろ、と涙が一粒転がり落ちてぽろぽろと溢れてくる。「た、っ、たす、ったすけて、」と吐き出したSOSに「うん。助けるよ。大丈夫、もう大丈夫だからね。俺たちがいるから」と萩原さんに手を握られて「ちゃんと、助けを求めてくれてありがとうございます。もう、大丈夫ですよ」と安室さんに背中を撫でられて、涙が止まらなかった。
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