「うん。大体分かった」と頷いてカップを傾けた彼に「今ので!?」と目を見開く。「夢で見た事なんでしょ?むしろ色々分かりすぎてて怖いくらい」と苦笑いをした彼に「私の説明が上手すぎたのか…萩原さんの理解力が高すぎなのか…」と呟けば「その2択なんだ?」と彼が声を上げて笑った。
顎に手を当ててふむ、と考えるような仕草をすれば、私の言葉がツボだったのか彼は楽しそうに笑った。お互いに自己紹介をしてから、ぽつりぽつりと語ったのは彼の死について。夢の中で見た出来事を取りこぼすことのないように、一つずつ丁寧に言葉にしていく。とは言え、専門的なことは分からない。
表現や用語が合っているのか分からずにふわっと伝えても、彼は私の言わんとしていることを正確に汲み取ってくれた。「あんな熱中症促進服を犯人の要求待ってる間も律儀に着てられるかっつーの。解体前に暑さで死ぬわ」と嫌そうに眉間に皺を寄せた彼に、釣られるように苦笑いを零す。
正直な所、その服がどれ程凄いものなのか、どれ程大事なものなのかは全く分からない。ただ、終始穏やかに笑っていた彼がこれほどまでに嫌そうな顔をするともなれば、よっぽどなのだろうと雰囲気で察した。「と、言う感じで……詳しい日時も場所も全く分かんないんです……すみません……」と肩を落として謝る。
ナンパ、だなんて大層な誘い文句で彼をカフェまで連れてきたのにこのザマだ。大した情報を与えた訳でも無ければ、むしろ変な混乱を招いている気すらしてくる。「……ほんと、ごめんなさい。信じられないですよね、ほんと……はい、すみませんでした……」と謝る声まで気持ちに比例して小さくなる。
けれど、彼はパッと表情を輝かせて、テーブルの上で握り締めていた私の手を両手で包む。「いや、ありがとう。君のお陰で、俺は死ぬ運命を変えられそう」とウインク付きで微笑みかけられて、思わずひゃっと声が出た。
「信じるよ、君のこと。これでも人を見る目には自信があるから」と柔らかく笑った彼にホッと安堵の息を吐いたのも束の間、ニコリと笑顔を浮かべた彼が「次は君のことを教えて欲しいな」と握った手に力を込める。
きょとん、と目を瞬かせた私に「俺ばっかり知られてて、ズルいじゃん?」と悪戯っ子のような顔で笑った彼に「ズルい、ですかね…」と苦笑いで返せば「うん」と返される。「そ、そうですか……」としか返すことが出来ずに露骨に困った顔をしていれば、耐えられないと言わんばかりに彼の肩が震え出す。
「そんな…っ、取って食う訳じゃないし…そんなに困った顔しなくても…ふっ、くくっ…」と顔を逸らして笑う彼を見てぶわりと顔が熱くなる。からかわれてる!と気付いた時にはもう遅い。どうやら私のリアクションがまたしてもツボにハマってしまったらしい彼がぷるぷると震えながら笑う。
「わ、笑いすぎじゃないですか」と唇を尖らせた私に「ごめんごめん。だってあんまりにも可愛くって」と彼は目尻の涙を指先で拭いながら答える。それから真っ直ぐに私を見て「意地悪してごめんね。色々、教えてくれて本当にありがとう」と頭を下げた。
「君の夢の通りにならないように、最善を尽くすよ」と敬礼をして見せた彼は、流れるように伝票を持って席を立つ。「これは勉強代ってことで、俺に払わせてね」とウインクをして、ひらひら手を振って去っていったスマートさに私は「……イケメンって、すごい」と呟くことしかできなかった。
それから数日、彼を見かけることも無ければ、あの日のような夢を見ることも無い。いつも通りの日常を過ごしていた私は、背後からかけられた声にビクリと肩を揺らして振り返る。そこには、額と腕に包帯を巻いた彼が立っていた。