もう失うものは無い

ハッと目が覚めたら朝だった。ベッドから降りて恐る恐る部屋を出る。声のする方へそうっと足を進めて扉を開ければ、部屋の中にいた萩原さんとぱちりと目が合った。「おはよ、香澄ちゃん」と微笑みかけられて「お、おは…おはよう、ございます…」と返事をすれば「こっちおいで」と手招きをされて、そろりと部屋に入る。

「はよ」と松田さんにも挨拶をされて同じように挨拶を返せば「ちゃんと寝れたか?」と松田さんが首を傾げる。「は、はい…!お、お陰様で…」とたどたどしく返事をすれば「良かった。お腹減ってない?朝ごはんできてるよ」と萩原さんが笑うから、申し訳なさが限界を突破した。

「あ、あの…ほんとに、ご迷惑をおかけして…すみませんでした…」と静かに土下座をすれば「ちょちょちょ、待って待って!?何で!?頭上げて!?」と萩原さんが大慌てで駆け寄って来て、松田さんは「この流れ見たことあんな」とけらけら笑っている。

萩原さんに無理やり体を起こされて「何から何まで、ほんとに、だって…」と泣きそうになりながら言えば「俺たちにも助けさせてって、言ったじゃん」と萩原さんが困ったように笑いながら私の頭を撫でる。でも、だって。

「この間も、迷惑かけたのに…」と声が震えてじわりと涙を滲ませれば「あん時は体調悪いお前のとこに押しかけた俺らが悪いって言ったろ。あれは俺らがお前に迷惑かけてんだからノーカンだ」と頭をがりがり掻きながら言うからぽかんとしてしまう。

「そうそう。まあ今回も無理やり聞き出した上に体調の悪い香澄ちゃんを何の説明も無しに連れ去ってる訳だから、結局俺らが迷惑かけてる側なのは変わんないけどね」と笑った萩原さんがごめんね、と謝るから「ま、まってください、そんな…!わたしが、」と慌てて言葉を遮る。本当にこの人達はああ言えばこう言う!

「でもお前は迷惑かけられた、なんて思ってねぇんだろ?」と聞いてくる松田さんに「そりゃそうですよ…!」と返せば「俺らも同じだ。俺らは俺らの意思で困ってるお前に声をかけただけで迷惑だなんて思ってねぇ」とわしわし頭を撫でられる。

「おら、さっさと顔洗ってこい。お前が起きて来んのおせーから腹減ってんだよ」と笑った松田さんにへにゃりと頬が緩んだのが分かった。「洗面所、一緒に行こっか。今日の朝は陣平ちゃんが作ってくれたんだよ」と萩原さんが手を差し出してくれるから「そうなんですか?ふふ、楽しみです」と笑いながらその手を取る。

洗面所に向かいながら「あの、千速さんは…」と尋ねれば「ちょっと前に仕事行ったよ。帰りは早く帰ってくるから一緒にご飯食べようってさ」と返ってくる。「そ、うなんですか…あの、萩原さんと松田さんは?」とちょっぴり不安になりながら尋ねれば「俺らは元々休みだったんだよ。無理言って休んだ訳じゃないから、香澄ちゃんがそんな不安そうな顔しなくていいんだよ」と頭をぽんぽんと撫でられてしまう。

私の不安も、何もかもお見通しにされてるようで恥ずかしくなっていれば空気を読まない私の腹の虫が音を立てる。「……ほんとに、ごめんなさい」と両手で顔を覆って羞恥心に耐えていれば「ふ…っ、はははっ!昨日うどんだけだったもんね。顔洗ったら戻っておいで。準備しとくから」と楽しそうに笑った萩原さんがひらひらと手を振ってリビングに戻っていく。

膝を抱えて蹲って「ぅぅ…」と唸ってから立ち上がる。鏡に映った私の顔は真っ赤になっていて「……恥ずかしすぎる」と項垂れながら顔を洗う。腹の虫は鳴るわ、すっぴんを晒すわ、もう失うものは無いなと思いながら洗面所を出た。
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