なんか、違和感があって

松田さんが作ってくれたのは目玉焼きとウインナー、ご飯に味噌汁。美味しいと褒めた私に「ただ焼いただけだろ。大袈裟」と松田さんは呆れたように笑うけれど、本当に美味しい。

「陣平ちゃんがウチで料理するなんて珍しいんだぜ」「おいハギ、余計なこと言うな」「そうなんですか?」「お前も食いつくんじゃねーよ」「いっつもハギ腹減った〜って言うだけなのに、香澄ちゃんいるから張り切ってんの」と三人でわいわいしながらご飯を食べる。

「洗い物は私がやります!譲りませんから!」食べ終わるなりガタリと立ち上がって勢いよく手を挙げた私を見て萩原さんは「ふは、じゃあお願いしちゃおっかな。ありがとね」と私の頭を撫でる。「お任せ下さい!」と張り切ったのに「じゃあ香澄ちゃんは食器拭いてくれる?陣平ちゃんはそれしまってね」とタオルを渡されてしまい「そうじゃなくて!」と項垂れる。

「手荒れちゃうでしょ」と笑った萩原さんの手は既に泡だらけ。松田さんも隣で「早くしろよ」なんて言いながら待機している始末だ。「今日の夜は私がやりますからね…!」と宣言をすれば「おー頑張れ頑張れ」と松田さんが私の頭をぽんぽんと撫でながらけらけらと笑う。絶対私がやりますからね!

朝ご飯を食べながら萩原さんが話してくれたのはこれからのことだった。私に付き纏っている男を捕まえるために降谷さんと諸伏さんが色々調べてくれているらしい。二人が調べてくれている間、私は護衛も兼ねて萩原さんの家に住むことになった。同性である千速さんがいることが何よりも大きかったらしい。

正直、あの家に一人でずっといるのはしんどいものがあった。極限まで追い詰められていた私にとって、有り難すぎる提案に甘えさせてもらうことにした、という訳だ。「よし、んじゃ香澄ちゃんの荷物取りに行くか」と車のキーを人差し指に引っ掛けてくるくる回す萩原さんの隣で「ついでに色々、な」と松田さんが言うから「色々?」と首を傾げる。

「香澄は気にしなくていい。しばらく帰れねぇんだから忘れ物すんなよ」と言われてこくりと頷いた私が、萩原さんたちに連れられてやって来た自宅。微かに震える手で鍵を開けて中に入る。玄関扉にくっ付いているポストを開ければ見覚えのある封筒が入っていた。

「これか?」「…はい」「今までのもあるんだよね?」「あ、ります。一応…」「それも全部持ってっていいか?」と手際よく封筒を回収した二人に言われるがまま部屋に入り今までの封筒を渡す。服や化粧品、その他生活をする上で必要なものを旅行用のカバンに詰め込み、封筒の中身を確認する二人の横でふと、違和感に気付いた。

「あ、れ…?」と思わず声を漏らせば「どうしたの?」と萩原さんが首を傾げる。「いや、なんか、違和感があって…」と部屋の中を見回す私に松田さんが鋭く目を細めた。部屋の中をぐるりと見回した萩原さんが「香澄ちゃん、昨日って俺と安室さんに会う前に家って帰ってきた?」と聞いてくる。

「い、いえ…朝出かけて、そのまま、萩原さんのお家に連れて行ってもらったので、」とたどたどしく返せば「チッ、おい香澄、早めにここ出るぞ」と松田さんが舌打ちをして「だね。足りないものがあったら買えばいいから、とりあえず行こうか」と萩原さんも険しい顔で私の背中に手を添えた。

荷物を持って半ば強引に外へと連れ出されて鍵を閉める。荷物を車に乗せて萩原さんが車を走らせてから、ようやく二人が口を開いた。「香澄、怖がらせるつもりはねぇが今から言うこと、ちゃんと聞けよ」と松田さんの言葉に何だか胸騒ぎがした。

ルームミラー越しに萩原さんと目が合って、こくりと唾を飲み込む。「多分、お前以外の誰かがあの部屋に出入りしてる」と続けられた松田さんの言葉にヒュッと息を飲んだ。「な、んで…」と声を震わせれば萩原さんが「リビングのカーテン、閉めたの香澄ちゃんじゃないよね」と困ったような口ぶりで言う。

部屋の様子を思い出して、ぞわりと鳥肌が立った。朝、カーテンを開けたのは私。そのまま出かけて、帰ってきたら私がカーテンを閉めるはずだった。けれど、昨日は家に帰らずにまっすぐ萩原さんの家に行った。つまり、カーテンは開いたままのはず。それなのに、さっきのリビングのカーテンは閉まっていた。

「だ、だれが…っ、まさか、」と手がかたかた震えて涙が滲む。いつから?どうやって?なぜ?ぐるぐると頭の中で疑問が浮かんで、積み重なっていく。恐怖と不安で潰されそうになるけれど「大丈夫。ちゃんと守るから、そんな顔しないで」「その為に俺らが一緒にいんだから、大丈夫だ」と聞こえてきた二人の声に安心の涙が零れ落ちた。
backtop