おまわりさんが逮捕してくれます

萩原さんたちと一緒に暮らすようになってからぱたりと視線を感じなくなった。心に生まれた余裕も相まって気のせいだったのかも、とポジティブに考えたのがいけなかったのだろうか。

「あの男誰だよ!!彼氏なんていなかっただろ!!」と血走った目で私の肩を掴む知らない男の人。怖くて体が動かなくて声が出せない。「俺のこと好きなんじゃなかったのかよ!!」と壁に体が押し付けられる。ドンッと強く背中を打ち付けて息が詰まった。何の事なのかさっぱり分からない。怖い。嫌だ。

かたかたと体が震えて涙が溢れてくる。「…っ、ゃ…め、」と何とか絞り出した声は男の声に遮られる。耳鳴りがして、視界が滲む。振り上げられた男の手に見えた銀色に呼吸が止まった。たすけて、と喉の奥で言葉が詰まった瞬間、目の前にいたはずの男が誰かに殴り飛ばされる。

「香澄ちゃん!」と諸伏さんの声が聞こえて、ぎゅうっと暖かい何かに包まれた。「ごめんね。もう大丈夫だからね、遅くなって、怖い思いさせてごめんね」と頭を撫でられて、ひくりと喉が引き攣る。「ひ…っ、っぅ…、ぁ…っ、」と嗚咽が零れて、次から次へと涙が溢れ出す。

「もう大丈夫だからね。大丈夫、大丈夫だよ」と何度も繰り返される優しい声に「ぅ、あ…っ、こわ、かった…っ、こわ…っか、ったぁぁあ…!」と声を上げて泣いた。しがみ付く手はガタガタと震えていて、力の抜けた足ではひとりで立つこともままならない。

ずるずると地面にへたり込んだ私の背中を優しく撫でながら諸伏さんが一緒にしゃがみ込む。ふわりと肩に何かがかけられて、泣きじゃくりながら視線を向ければ「来るのが遅くなってしまって、すみませんでした」と泣きそうに眉を下げた降谷さんと目が合う。

降谷さんが着ていたであろう上着が肩にかけられていて「怖い思いをさせてしまいましたね」と目元を優しく撫でるようにして涙が拭われる。「あむっ、あむ、ろさん…っ、」と名前を呼べば「もう、大丈夫ですよ。貴方に害を成す不届き者はおまわりさんが逮捕してくれますからね」と優しく微笑んだ降谷さんが私の手をぎゅっと握ってくれる。

「〜〜ッ、ふ、ぇ…っ、たすっ…たすけて、くれっ、て…ありがと、…っう、ございます…」とボロボロ涙を零してしゃくりあげながらお礼を言えば二人は、ふわりと優しく笑う。「無事で、本当に良かったよ」「貴方に怪我が無くて、本当に良かったです」と二人に頭を、背中を、優しく撫でられて益々涙が止まらなかった私は、連絡を受けた萩原さん達がやって来るまで子供のように泣きじゃくり続けた。
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