一つで二度美味しい、みたいな

「香澄ちゃん、水族館好き?」と笑った諸伏さんに「?まあ、好き…です、けど…?」と首を傾げながら傾げた私は、諸伏さんに連れられて水族館にやって来ていた。一体全体、どういうことだ。「ごめんね、急に誘っちゃって」と私の顔を覗き込む諸伏さんは大きめのメガネをかけていて、出会った時にはあった顎髭が無くなっていた。

お陰で随分と幼く見える。「それは、全然いいんですけど…」と返した私に「何かの懸賞でチケット当たったはいいんだけど、使い道が無くてさ。付き合ってくれて助かったよ」と笑った諸伏さんに謎のデジャヴ。何か松田さんもそんなこと言ってたな…と思いながらも、リニューアルしたばかりの水族館が気になってたのは嘘じゃない。

「私も、ちょっとここ気になってたんです。だから、誘ってくれてありがとうございます」と笑って返せば諸伏さんが安心したようにホッと息を吐いてからふわりと微笑んだ。大きな水槽で悠々と泳ぐ魚を見つめながら「……今日の夜、お魚にしよ…」と呟いた私に「ぶっ、」と諸伏さんが吹き出す。

「ふ…っくくっ…魚食べるんだ…ふふ、」と顔を逸らして肩を揺らす諸伏さんに「水族館来るといっつもお魚食べたくなっちゃうんですよねぇ…あっ、サメいる!諸伏さん!サメ!」ときゃあきゃあ声を上げれば「はいはい、向こうの方行ってみよっか」と楽しそうに笑ってサメが見えやすい場所まで私の手を引いてくれる。

「何で他のお魚と一緒にしてて大丈夫なんですかねぇ」と水槽を見つめながら呟けば「お腹いっぱいになってるかららしいよ」と同じように水槽を見つめながら諸伏さんが返してくれるから「へぇぇ…この子達、案外リッチなんてすねぇ…」と感動してしまう。

「サメ好きなの?」と笑う諸伏さんに「好きです!」と食い気味に返せば、きょとりと目を瞬かせた諸伏さんが「……そっか」と口元を隠すようにして顔を逸らす。「どんな所が好きなの?」と続けられた質問に少しだけ考えてから「強いから?」と返す。

「強いから?」とオウム返しをした諸伏さんに「あと可愛い」と続ければ「あと可愛い」と再びオウム返し。「カッコイイのに可愛いって良いとこ取りですよね。一つで二度美味しい、みたいな」と返した私に再び吹き出す声が聞こえてきて「そんなに笑います?」と唇を尖らせれば「可愛いなぁって思っただけだよ。ごめんごめん」と笑いながら諸伏さんが私の頭を撫でる。

それから水槽の中のサメを見つめながら「それで言ったら香澄ちゃんは、サメと同じだね」と呟いた諸伏さんに「私、そんなに怖いですか…!?」と驚けば「違う違う。二度美味しいってやつ」と笑いながら返される。どういう意味?と首を傾げた私の顔を覗き込んで「香澄ちゃんも、強くてカッコイイ所と、可愛い所、どっちも持ってるじゃん」と指の背で頬をするりと撫でられる。

「ぅえっ、!?」と肩を揺らせば「俺に危険を教えてくれた時はすっごいカッコよかったけど、今はほら…顔真っ赤で可愛いよね」ととろりと眦を下げられてきゅっと唇を噛む。「あ、そろそろイルカショーだって。行ってみる?」といつものような優しい笑顔を向けられるから「行きましょう!イルカショー!」と逃げるように距離を取る。「置いて行っちゃいますよ!」と恥ずかしさを隠す為に声を上げた私に諸伏さんが声を上げて笑った。
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