悪いのはね、誘拐した犯人だけ

「香澄さん!」と体を揺すられてゆっくりと目を開ける。ぼやける視界に映ったコナンくんがホッと息を吐いて「大丈夫?」と聞いてくる。ゆっくりと体を起こしてずきずきと痛む頭を押さえながら、先程までの出来事を思い出した。

買い物に出かけた帰り道。自宅近くで「すみません、道を教えて欲しいんですが」と声をかけられて振り返ろうとしたら、背後から伸びてきた手に口を塞がれた。すぐに襲ってきた眠気に逆らえずに意識を落として、目が覚めたら薄暗い倉庫のような場所で両手足を縛られていた。

何が何だか分からなくて怖くて震えていたら大きな音がして地面が揺れた。バランスを崩して倒れ込んで、頭を打って…きっと意識を失ったんだと思う。「どこか痛む所はある?」と心配そうな顔で私を見つめるコナンくんに「たぶん、だいじょうぶ…」と返すけれど、正直全身が痛い。

先程までは薄暗い倉庫だったのに、今は瓦礫の山で埋め尽くされた廃屋のようになっている。手足を縛っていたであろうロープはコナンくんの傍に落ちていて「コナンくんが、ほどいてくれたの?」と尋ねれば「うん。ここに来たら香澄さんが縛られたまま倒れてたから。腕も足も、かなり擦りむいてたから後でちゃんと手当してね」とコナンくんがニコッと笑う。

「ありがとう」と頭を撫でれば「ううん。当然のこと、しただけだから」と恥ずかしそうに笑って返される。「ねえ、コナンくんは、ここがどこだか分かってる…の…?」と両手をぎゅっと握り締めて尋ねる。正直怖くて仕方がない。意識しないと声も体も震えてしまいそうだし、泣いていいなら、もう泣いてる。

やたらと落ち着いているコナンくんを見つめれば「うん。分かってるよ」と返ってきた。「僕らは香澄さんを誘拐した犯人から、ここにいるって言われて来たんだ。さっき大きな爆発があったんだけど、覚えてる?」とゆっくり話しながら、コナンくんがぎゅっと手を握ってくれる。

「た、ぶん。その爆発で、頭を打って倒れちゃったんだと思う」と返せば「ほんとに、倒壊に巻き込まれなくてよかった。僕以外にも香澄さんを助けに来てる人たちがいるんだけど、この場所に来る道が全部崩れちゃってて一番小さい僕が様子を見に来たんだ」と笑顔を向けてくれるコナンくんに「そうだったんだ…危ない目に遭わせてごめんね」と泣きそうになりながら謝る。

私のせいで、こんなに擦り傷だらけになってる。もう乾いているけれど、所々に血の跡もある。「本当はね、すっごい怖くて泣いちゃいそうだったの。コナンくんが来てくれてホッとしちゃうなんて、大人なのに情けないね。ごめんね、コナンくん。ありがとう」と小さな体をぎゅっと抱き締めれば優しく背中をとんとん、と撫でられる。

「大人とか、子供とか関係ないよ。怖くて当たり前だよ、こんなの。大丈夫だよ、すぐに助けが来るから一緒に待ってよう」と情けなくもコナンくんに慰められて、ちょっぴり涙が零れた。「それにね、香澄さんが僕を巻き込んだんじゃないよ」と少し体を離したコナンくんが私をじっと見つめる。

言葉の意味が分からずに首を傾げれば「香澄さんが僕たちを巻き込んだんじゃない。香澄さんは巻き込まれただけなんだ。謝らないといけないのは、僕たちの方なんだ。ごめんなさい、怖い思いをさせて」とコナンくんの眉がしょんぼりと下がる。正直、意味は分からなかった。

どうしてコナンくんが…とか、今何が起きているのか…とか。聞きたいことは沢山あったけれど、コナンくんの本当に申し訳なさそうな苦し気な顔を見たら「ううん。コナンくんは悪くないんだから、そんな顔しないで」と両手で優しく頬を包んであげることしかできなかった。

「へ?」と目をパチパチ瞬かせるコナンくんに「知り合いのお巡りさんから、日頃から周りには気を付けなさいって言われてたの。知らない人から声かけられても着いてっちゃダメだよって」と言えば「……香澄さん、すごい子供扱いされてない?」と呆れたような視線が飛んでくる。

「ふふ、私もそう思った。でも、そうやって沢山心配してくれてたのに、知らない人に声かけられて、まんまと誘拐されちゃったんだもん。私の注意不足だよ」と肩を竦めてから「悪いのはね、誘拐した犯人だけ。だから、コナンくんがそんな顔しなくていいの。分かった?」とコナンくんの柔らかいほっぺたをむぎゅっとする。

その言葉に、少し驚いたように目を見開いたコナンくんが「ありがとう、香澄さん」とへにゃりと笑った。「ところで、他にも来ている人って?」「香澄さんの知り合いのお巡りさんたちだよ」「えっ」「安室さんと萩原さんは見たことないくらい怒ってた」「見た事ないくらい…?」「すごい口悪かったよ」「すごい口悪かった…?」「だから大丈夫!」「そっかぁ…?」
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