「ちょっと待ってて」と部屋の隅の方へと向かって行ったコナンくんを見つめながら視線を動かして、割れたガラスに反射した自分を見て違和感を覚えた。「わたし、チョーカーなんて、付けてた…?」と首に手を当てる。少し厚みのある黒色のチョーカーは、私の物では無い。なら、これは一体何だ。
バクバクと心臓が跳ねて、こんな時に限って頭は酷く冷静だった。部屋の中で瓦礫に埋もれながらも、壊れていない箱。そっと近付いて、中を覗いて、ぺたりと座り込んだ。「香澄さん!すぐそこまで安室さんたちが来てるよ!」と駆け寄ってきたコナンくんが私を見て「香澄さん?どうしたの?」と首を傾げる。
「コナンくん、ここに一人で来たなら、一人で帰れるよね?」と尋ねた私にコナンくんは怪訝な顔をした。「香澄さん、それどういう意味?」と納得していない顔をするコナンくんに「安室さんたちにも、伝えて。もう、来なくていいって」と静かに首を横に振る。
「ねえ、香澄さん何かあった?それともなにか見つけたの?その箱の中身が関係してる?」と矢継ぎ早に飛んでくる質問に、すぐ答えられなかった。言葉に詰まった私を見て、コナンくんは何かを確信したように近付いてくる。箱の中身を覗き込んだコナンくんはハッと目を見開いてから私を見て「クソッ!」と声を荒げた。
箱の中に入っていたのは爆弾だった。私の首に付いているチョーカーと箱の中の爆弾が一定の距離だけ離れると爆発するようにできていると、ご丁寧な説明書きがされていた。タイムオーバーになってもダメ、私がここから離れてもダメ。素人目に見ても難しいんだろうな、と思うほどに配線が張り巡らされた大きな爆弾がそこにはあった。
「コナンくん、お願いがあるの」とコナンくんを見れば「嫌だ」と首を横に振られる。「お願い、コナンくんにしか頼めないの」ともう一度頼めば「萩原さんも松田刑事もいる!安室さんだっているんだよ!?まだ時間はあるんだ!解体さえしちゃえば…!」とコナンくんは苦しそうな顔で声を荒げる。
その言葉に、私は静かに首を横に振った。「皆に、伝えて」 きっと皆は、意地でも私を助けようとする。だって、皆は底抜けに優しい人たちだから。だから、私はこれから酷いことを言う。ごめんなさい。最後の最後まで、ずっと、沢山迷惑をかけてしまってごめんなさい。
「死ぬのは、私だけでいい。来なくていいんじゃないの、来ないで欲しいの。お願い、私が助けた命、無駄にしないで…って、」 酷いこと言って、ごめんなさい。恩着せがましいこと言って、ごめんなさい。これ以上、あなた達を突っぱねるための言葉が、思い浮かばなかったの。
「コナンくん、お願い」と真っ直ぐにコナンくんを見つめて、コナンくんの両手をぎゅっと握り締めた。「絶対、伝えてね。絶対よ」と念を押して手を離す。きゅっと泣きそうに顔を歪めたコナンくんが「…ッわか、った。伝えるよ」と頷いて瓦礫の奥に消えていく。
いかないで、なんて言っちゃいけないのに。一人にしないで、なんて言っちゃいけないのに。心細い。怖い。寂しい。たすけて。死にたく、ない。ぼろぼろと涙が溢れて、じんわりと体が、指先が冷えていく。かちかちと歯が音を立てて、指先が震える。膝を抱えて体を小さく丸めて、目を閉じる。
「ふ…っ、ぅ、ひっぅ、」と溢れる嗚咽のせいで喉が痛い。こわくて、たまらない。「しに、たく…っない、っ、」と我慢できずに弱音が零れ落ちた瞬間だった。ダァンッ!と大きな音がしてビクリと肩が揺れる。ハッと顔を上げれば瓦礫で埋もれていたはずの扉が開いていて、降谷さんが立っていた。
「僕たちが、君を死なせる訳ないだろう」と降谷さんが部屋に入ってきて、それに続くように萩原さんたちも部屋に入ってくる。どうして、なんで。来ないでって、言ったのに。「な、んで、」と小さな声で呟けば「あ?何でもクソもあるか。何回言わせんだ、お前」と松田さんが私の額にビシリとデコピンをする。
「俺たちにも助けさせてって、言ったじゃん。大丈夫、俺たちに任せて」と萩原さんがぱちりとウインクをして私の頭をぽん、と撫でた。「遅くなってごめんね。もう大丈夫、一緒に帰ろう」と諸伏さんがキツく握り締めた拳を包み込むように握ってくれる。
「君が救った命だぞ。強さも、しぶとさも、君が一番良く知ってるだろ。死なないさ、無駄になんて絶対しない」と降谷さんが私の前にしゃがみ込んで涙で濡れた頬をそっと撫でる。「香澄、本当に、僕たちは来なくて良かったか?」と優しい顔で見つめられて、きゅうっと喉が引き攣った。
「どうして欲しいか、ちゃんと教えて。香澄、」と降谷さんに促されて我慢なんて出来なかった。「た、…っすけて、たすけて…!ひとりにっ、…しないで、」泣きじゃくりながら何度も助けて、と繰り返す私に全員が頷く。「勿論」と全員の声が重なって「後は、僕たちに任せろ」と降谷さんに抱き締められる。
背中を撫でてくれる手が温かくて、安心したら涙が止まらない。あんなにも寒くて、あんなにも不安で、息をすることも苦しかったのが嘘のようだった。