寒くて仕方なかった

「よし、香澄ちゃんの首のやつ、もう外して大丈夫」と萩原さんの声がしてぴくりと肩が揺れた。その声に降谷さんが返事をして「少し触るよ」と諸伏さんが私の首に付いていたチョーカーに触れる。信じてる。信じてはいるけれど、怖いものは怖い。

ぎゅっと目を瞑った私の手を握った降谷さんが「大丈夫だ」と私を見つめる。バクバクと跳ねていた心臓が落ち着いて、カチャリと軽い音と共にチョーカーが外された。「後はコイツをバラしちまえば終わりだ。よく頑張ったな」と松田さんにくしゃりと頭を撫でられて、ぽろっと涙が零れた。

「あっ、あり…っありがと…う…ございます、!」と両手で目元をぐしぐし拭いながらお礼を言えば「ああ、もう…もっと腫れちゃうから、擦らないの」と諸伏さんが私の両手首を掴む。「だ、だってぇぇえ…」とえぐえぐ泣けば「今日の香澄ちゃんの涙腺はお仕事サボってんねぇ」と萩原さんが苦笑いで頬を撫でる。

その後は、あっという間だった。配線が多いだけで本体の構造はさして難しくもない簡単な物だと笑った萩原さんと松田さんによって爆弾の解体が完了する。「終わったよ、香澄ちゃん」と萩原さんに頭を撫でられて「後はここから出て、家に帰るだけだな」と差し伸べられた降谷さんの手を取ってゆっくりと立ち上がる。

先程まで命の危険と隣り合わせだったとは思えないくらいのテンションで私たちの前を歩く萩原さんたちを見て「ふふっ」とまた笑みが零れる。「今日は、泣いたり笑ったり忙しいな」と意地悪な顔で笑った降谷さんが私の頬をむに、と摘む。

「もし、私が萩原さんたちに会えてなかったらきっと今日は乗り越えられなかったなぁ…って思って」と呟いた私に降谷さんが目を丸くする。「そ、れは…」と言葉に詰まってしまった降谷さんに「あっ、でも皆さんに会ってなかったら、私がこうなる事も無かったのかな…?」と首を傾げてから「卵と鶏のどっちが先か、みたいな感じになっちゃいますね」とくすくす笑う。

「詳しいことは、後できちんと話すが…今回の件は、僕が原因なんだ。僕が、君の身を危険に晒したんだ」と苦しそうな顔で吐き出した降谷さんを思わずぽかんと見つめてしまった。「本当に、すまなかった。謝って済む話じゃないのは、分かってる」と頭を下げた降谷さんに背筋がピッと伸びた。

「待ってください!ちょっと、降谷さん…!顔上げてください!」と慌てて言えば、降谷さんの顔がそろりと上がって、不安そうな目が私を見つめる。

コナンくんにしたように降谷さんの頬をむぎゅりと両手で包んで「悪いのは犯人だけですよ。原因が降谷さんにあったとしたら、知らない人に声をかけられて無警戒にリアクションした私にも原因はあります。だから、自分を責めちゃダメです。詳しい事情を聞いたとしても、降谷さんのせいだなんて言いませんよ」と笑えば、降谷さんはくしゃりと泣きそうに顔を歪めてから「ッありがとう、香澄さん」と柔らかく微笑んだ。

そして、降谷さんに手を引かれて建物を出た私を見て「香澄ちゃん!良かった、無事だったか…」と伊達さんが駆け寄ってくる。「ご迷惑おかけしました…」と頭を下げれば、ビシリと頭の上にチョップが落とされて「こら。香澄ちゃんは迷惑なんかかけてないだろ」と困ったように笑った伊達さんが「心配してもらったら、なんて言うんだ?」と優しく笑って頭をぽんと撫でてくれる。

「心配、してくれて…ありがとうございます、」と頬を緩めてへにゃりと笑った私を見て伊達さんが「よし!」と笑う。「香澄ちゃん、帰るよ〜!」とこちらに手招きをする萩原さんの方へ駆け寄ろうとして、ぞわりと背筋が粟立った。なんだろう、何かに見られているような気がする。

ぴたりと足を止めて立ち止まり、振り返って、目が合った。ニタリと笑った男が持っていた黒く光る鉄の塊。ゆっくりと銃口が上がって、向けられた先に視線を向ける。「ッ、降谷さん!!!」と今までに出したことが無いくらい大きな声が出て、駆け出した勢いのまま降谷さんを突き飛ばす。

破裂音が響いて、降谷さんが目を見開いて私の名前を叫ぶ。背中に走った衝撃と、熱。ぐらりとバランスを崩した体は尻もちをついた降谷さんに凭れかかるように倒れ込む。何度も名前を呼ばれるけれど返事が出来ない。降谷さんたちの声が遠くなっていって、瞼がどんどん重くなる。あんなに暖かかったはずなのに、寒くて仕方なかった。
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