ずっと眠り続けていた事で、体力も筋肉も落ちてしまった。リハビリをしながら少しずつ取り戻して行きましょう、と言われたものの私の足は思うようには動かなかった。今までのように歩いて、走って、動き回ることは、もう叶わない。
「降谷さん、責任感じちゃうかなぁ…」とベッドの上でため息を吐く。悪いのは、犯人。狙われていた降谷さんは、ほんの少しだって悪くない。伊達さんも言っていた。犯人以外の誰かにほんの少しでも悪い所があったとすれば、飛び出した私だと。その通りだと思っているけれど、降谷さんは、そうは思わない。
「あの人、頑固だからなぁ…」と呟いて窓の外を見ていれば、トントン、とノックが聞こえる。するりと開いた扉から顔を覗かせたのは萩原さんと松田さんだった。「今日は起きてて平気なの?」と柔らかく笑いながら入って来た萩原さんに「はい。さっきまでリハビリで」と笑えば「そっか。お疲れ様」と同じように笑みが返される。
「調子は?」と尋ねてくる松田さんに「ぼちぼち、ですかねぇ」と返事を濁せば「……そうか」と小さく返した松田さんがくしゃりと私の頭を撫でる。微妙な空気を遮るように「香澄ちゃんの好きなお菓子、買ってきたよ」と笑った萩原さんがテーブルの上にお菓子を広げる。
「いつもありがとうございます」とお礼を言えば「どういたしまして」と優しく笑った萩原さんが髪の毛を梳くようにそっと撫でた。その日の夜、病室に顔を見せてくれたのは諸伏さんと降谷さん。「調子はどう?」と首を傾げる諸伏さんに「日中のリハビリで結構体力持ってかれちゃいました」と苦笑いをすれば「ははっ、お疲れ様」と頭をぽんぽんと撫でてくれる。
「リハビリはどうだ?順調か?」と困ったように眉を下げて聞いてくる降谷さんに「ぼちぼち、ですかね」と返してしまった。くしゃりと顔が歪んで「…そう、か」と小さく呟いた降谷さんを見て「ゼロ、」と諸伏さんが窘めるような声で名前を呼ぶ。
病室の中に流れてしまった微妙な空気を払拭するように「待っててくださいね。すぐ元通りになってみせますよ」と明るい声を出して、親指をグッと立てて笑って見せる。二人は一瞬きょとんとしてから「ははっ、頼もしいな」「ああ、楽しみにしてるよ」と柔らかく笑って私の頭を撫でてくれた。二人が帰った後、一人になった病室でぎゅっと拳を握り締める。
大丈夫。元通りになればいいだけだ。頑張ってリハビリをして、今まで通りに歩けるようになればいいだけだ。皆が安心できるように、なればいいんだ。ベッドから足を下ろして、ゆっくり立ち上がる。思うように動かない体が、憎らしくて、涙が出た。