全部、生きてなきゃできない

(Side:降谷)

分かっていた。彼女の体が、今までのように動かないことを。彼女がその事実を僕たちに知られまいと必死に隠していることを。そして、それが全て、僕のせいであることも。どうせなら、お前のせいだと言われた方がマシだった。お前のせいでこうなったのだと、責任を取れと、罵倒された方が良かった。

ああ、でも本当に彼女からそんなことを言われたら思いのほか傷付くかもしれない。なんて、馬鹿なことを考えては自嘲めいた笑みを浮かべて項垂れた。「らしくないな。あんなに露骨に態度に出すなんて」と苦笑いをしながら缶コーヒーを差し出したヒロに「…悪い」と小さく返してそれを受け取る。

カシュ、とプルタブを開けて口に含めば、じわりと苦味が広がった。「僕が、そう、させてるんだと思うんだ」と小さく呟けば「香澄ちゃんの足のこと?」とヒロが首を傾げる。

「僕が自分を責めないように、平気なフリをしているのは分かってるんだ。でも、僕があの時、もっと早く気付けば…もっと、周りを見ていれば、ってあの日から毎日考えるんだ。大事にしたかった、危険な目に遭わせたくなかった…あの子に、笑っていて欲しかったのに…ッ、あの子から笑顔を奪ったのは、僕じゃないか…!」と缶コーヒーを握り締めて本音を吐き出す。

こんなことを考えているから、いつまで経ってもあの子に気を使わせてしまう。分かっている。けれど、あの日から何度も夢に見る。撃たれる彼女と、溢れる赤。冷たくなっていく体と、色の抜け落ちていく顔。お前のせいだと僕を責める僕自身。繰り返し、繰り返し、何度もその夢を見る。

「お前のせいだって、あの子に言って欲しいと思うのに、本当に言われたらと思うと病室に足を運べないんだ…ははっ、情けないだろ」と乾いた笑いを零して、くしゃりと前髪を握り締める。本当になんて情けないんだ、と思っていれば「ゼロってさぁ、意外とバカだよな」とあっけらかんとした声が飛んでくる。

「……は?」とぽかんとしながらヒロを見れば呆れたような顔で「それ、別に香澄ちゃんと話せばいいだけだろ。一人で考えて一人で完結させようとしてうだうだ悩んでるくらいなら香澄ちゃんにどう思ってるのか聞いてくればいいじゃん」とヒロが笑う。

それが出来たら苦労してない、と言おうとした僕にヒロが言葉を続ける。「それが出来たら苦労してないって顔してるけど、何かと理由つけてやんないだろ、ゼロは。いいんだよ。迷惑かけても、喧嘩しても、嫌なこと言っちゃっても。全部、生きてなきゃできない」と真っ直ぐ見つめられてハッとする。

「俺らだってそうだっただろ。死ぬかもしれなかった。危ないことをしようとしてた。でも、香澄ちゃんがそれを教えてくれて、俺たちは生きてる。だから喧嘩もできるし文句も言える。なぁ、ゼロ。香澄ちゃんは、生きてるんだよ」と僕の手にヒロの手が重なる。

「そう、だよな…生きてるんだよな…ヒロも、あの子も」と小さな声で呟く。こんな簡単なことに、どうして気付けなかったのだろう。考えずとも分かるはずのことなのに。「それに、知らない男を捕まえてナンパですって言うような子だぞ?俺たちが守ってあげなきゃいけないような弱い子じゃないだろ」と茶目っ気たっぷりに言うヒロに思わず頬が緩んだ。「そうだな…そう、だよな」と目尻に滲んだ涙を隠すように静かに目を閉じた。
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