私には、何の前触れも無く頭の中でパチッとスイッチが入ったように知らない誰かが死ぬ映像が流れ出す、という役に立つのかどうか分からない力がある。映像の中でタヒんだ彼を偶然、街中で見つけて萩原さんに声をかけた時と同じように「あ、あの!お兄さん今暇ですか!」と何も考えずに声をかけてしまった。
「あ?何だお前」と怪訝な顔でこちらを見る彼に「ひっ、あっいや、あの…っナンパです!ナンパしてます!今!」と、あの日と同じ言い訳しか思いつかなかった。「……はぁ?」とぽかんと口を開けて見られてしまい、じわじわと羞恥で顔が熱くなる。
「な、なにか言ってくださいよ…!」と我慢できずに声を上げれば、彼はハッと何かを思い出したように目を見開いてから「お前か。ハギが言ってたナンパ女」と口にする。何だその不名誉なあだ名は。と言うよりも「ハギって…?」と首を傾げれば「萩原だよ。数年前にお前がナンパしたタレ目のロン毛」と言われてピンとくる。ああ、萩原さんか。
「お知り合いなんですか!?」と目を見開けば「知り合いも何も同じ職場だっつーの。知ってて声かけたんじゃねーのかよ」と呆れたようにため息を吐かれる。「し、知らないですよ…萩原さんからはたまにメッセージが来るくらいで頻繁に会ってる訳じゃないし…」と呟けば「は?会ってねぇの?」と彼が目を瞬かせる。
そんなに不思議なことを言っただろうかと彼の様子を伺えば「ふぅん……いいぜ、乗ってやるよ。お前のナンパ」と彼が笑う。「……え゛っ」と声を漏らせば「お前が言ったんだろ。ほら、さっさとエスコートしろよ」と意地悪そうに笑いかけてくるから「エスコートされる側の態度じゃない……」と呟きながら、あの日と同じカフェへと足を向けた。
席に着くなり「で?何だってアイツから俺に乗り換えたんだよ」なんて失礼なことを言う彼に「人聞き悪いこと言わないでください!乗り換えるも何も萩原さんとは何もありません!」と声を荒げれば「どうだか」と態とらしく肩を竦めた彼がカップを傾ける。
これから私が彼に話すのは突拍子もない、嘘にしか聞こえない本当の話。加えて、聞かされた相手がほぼ百パーセント不愉快になる話だ。萩原さんは優しく聞いてくれたけれど、彼は聞いてくれるのだろうか。目の前に置かれたマグカップをぎゅうっと両手で握り締めて、言葉を探していれば「……はぁ」とため息が飛んでくる。
びくりと肩を揺らして恐る恐る様子を伺えば、片頬を付いて手のひらに顎を乗せた彼が「大体のことはハギから聞いてる。お前、知らない男に声かけれるようなタイプじゃねーだろ。それなのに俺に声をかけたってことは余程のことがあったってことだ。んで、それはアイツに声をかけた時と同じ理由。違うか?」淡々と話された内容にぽかんと口を開けて固まる。
「これでも『おまわりさん』なんでね。で?俺が吹っ飛んじまう映像でも見たのかよ」とくつくつ喉を鳴らして楽しそうに彼が笑うから、「な、なんで…」と混乱しながら尋ねれば「どんだけ馬鹿げた話でも、アイツを助けてもらったのは事実だからな」と彼がふっと表情を緩める。
サングラスの奥で目尻がやんわりと下がって、がらりと雰囲気が変わった。「お前の言う通りになるとは思ってねぇ。でも、可能性があると思って構えとくのに損はねぇだろ。おら、早く話せ」とカップに口を付けた彼の言葉に従って、私は見えてしまった映像の内容を口にした。