お巡りさんとしては100点

「悪いな。ちょっと話聞かせてくれるか」と肩に手を置かれて面白いくらいに肩が跳ねた。何か悪いことをしてしまったのだろうかと、泣きそうな顔で振り向くと「ぶっ、くくっ…おま、っふは、」と松田さんが肩を震わせて笑っていて、思わず「んな、なっ…なに、な、何ですか!?驚かさないでくれます!?」と大きな声が出た。

そんなに不審な動きをしていただろうか。肩にぽんと置かれた手と、男の人の声。おっかなびっくり振り返れば、ニヤニヤと悪戯っ子のような顔で笑う松田さんがいて思わず地団駄を踏んだ。何なの!もう!私のリアクションが余程ツボだったのか、彼はお腹を押さえて肩を震わせながら笑い続けている。

「〜〜ッわ、笑いすぎでは!?」と怒る私に「ははっ、悪い悪い。ちょっと面貸せよ」と言いながら彼は目尻に浮かんだ涙を指先で拭った。涙が出るほど笑わなくたっていいじゃないか。と言うか、誘うにしたってもう少し言い方って物があるだろう。

「今日はそんなにお金持ってませんよ、わたし」とジト目で見れば「カツアゲしに来た訳じゃねーんだわ。お前俺の職業忘れたとは言わせねぇぞ」と言いながらひくりと頬を引き攣らせた彼が私の頬を指先で摘む。「ひはいんれすけろ!?」と抗議の声をあげて抵抗する私に「ふは、間抜け面」と笑いながら手を離した彼を再びキッと睨みつける。

「おら、行くぞ」と歩き出した彼の背中を追いかけてやって来たのはいつかのカフェ。「強引すぎますよ……私がこの後予定あったらどうするんですか……」とため息を吐けば、何を言ってるんだと言わんばかりの顔で「はあ?予定無いって分かってるから連れてきたんだろ」と言われてしまう。どういうこと?

首を傾げた私に「どうせ休みの日にドラックストアに買い物に来たついでに色々見てみようかな、とか思ってこの辺彷徨いてただけだろ」と彼が言うから、どうして分かるんだと目を見開く。「は…!?えっ、なん、ストーカーですか?」「しょっぴくぞお前」「すいません」なんてテンポの良い会話を交わすけどどうして私の行動が分かったのかは謎だ。

「上着で隠してるけど、その下スウェットだろ。予定があって出かけに来たって言うよりも、生活必需品を買う為だけに外に出てきましたって格好じゃねーか。その帽子とマスクもどうせ化粧だの寝癖だの誤魔化すためだろ」とその通りすぎる指摘に返す言葉が無い。

「……大当たりです。お巡りさんとしては100点かもしれませんけど、デリカシー無さすぎです。男の人としては落第点ですね」と八つ当たりのように返せば「んだとコラ」と彼が片眉を上げる。けれどすぐに表情を緩めてから居住まいを正して私に向かって頭を下げた。突然の行動にびくりと肩が跳ねる。

「えっ、な…っちょ、ちょっと松田さん!?」と大慌ての私に「お前のお陰で、俺も、一般市民も、誰一人傷付けずに済んだ。ありがとう」と彼は静かに告げる。その言葉を聞いて、ハッとした。つまり、あの映像の出来事が起こったということだ。「っ、けが、してないんですか…?」と恐る恐る尋ねれば顔を上げた彼が頷く。

「ああ、この通りピンピンしてる。お前のお陰だ」と真っ直ぐに見つめられて、安堵の涙が零れる。「よか、よかった、しななくて…っよかった、」と頬を伝う涙を拭えば「あぁ……俺も、ハギも、お前に救われちまったな」と困ったように肩を竦めた彼が私の頭をぽんと撫でてくれた。
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