お付き合いを始める前から知っていた事ではあったけれど、研二さんはとてもモテる。待ち合わせ場所で女の子に声をかけられている姿は何度も見ているし、今更それを見たところでヤキモチを妬いたりもしない。すごいなぁ、と思うだけだ。
でも、私がそう思えていたのは研二さんのお陰だったんだと気付かされた。私が近付くとすぐに気付いて駆け寄ってきてくれる研二さんが、今日は来てくれなかった。女の子たちに私に向けるような優しい顔で笑って、私の方を見てくれない。
ズキズキと胸が痛んで、見ていられなかった。呆然としながら女の子に囲まれる研二さんを見つめていれば、パチリと目が合って、研二さんの目が大きく見開かれる。ハッとして足を一歩引くけれど、咄嗟のことで上手く動かない。
あっという間に距離が縮められて「香澄ちゃん?どうしたの?何かあった?」と研二さんが心配そうに私の頬を撫でる。そこで初めて私は自分が泣いていることに気が付いた。「なん、でも…ないです…」と小さな声で呟けば「何でもないこと無いでしょ」と困ったように返される。
その顔を見て、ひくりと喉が引き攣って益々涙が溢れた。面倒なこと言ってごめんなさい。違う、研二さんはそんな事言わない。嫌いにならないで欲しい。研二さんはいつも好きって言ってるくれるから大丈夫。頭の中でぐるぐると考えれば考えるほど涙が溢れてくる。
「やだ、わたしいがい、みちゃやだ」と研二さんの胸元に擦り寄る。研二さんの前だと涙腺がどうしても緩くなる。泣いて許してもらおうなんて思ってないけど、そう思われてたらどうしよう。
ぽろぽろと涙が溢れて、研二さんが私の名前を呼ぶ度に返事を聞くのが怖くていやいやと首を横に振る。「やだ、きらいにならないで…っ、」と縋り付く私に「ならないよ。ちょっと場所変えよっか」と優しい声で言った研二さんがふわりと私を抱き上げる。
人通りの少ない路地裏に私を下ろした研二さんが「さっき女の子たちから何してるんですかって声かけられて彼女待ってるんだよって答えたのよ。そしたら、女の子たちからお兄さんその子のこと大好きなんだねって苦笑いされちゃってさ。香澄ちゃんのこと考える時の俺って、すっげぇ顔緩んじまうみたいで、超恥ずかしかったわ」とくすくす笑う。
ぽかんとして研二さんを見れば頬は微かに赤く染まってて照れているのが一目で分かった。「俺、マジで香澄ちゃんのことしか見えてないし、嫌いになるどころか毎秒好きになっちゃって困ってるくらいなんだけど」と大きな手で頬を包まれて「もう、好きなんかじゃ足りないくらい好きだよ」と研二さんの眦がとろりと下がる。
甘い微笑みにきゅうっと胸が苦しくなって、それから自分の恥ずかしい発言を思い出して顔が熱くなる。「ぁ、う…ごめ、っ!?」と謝ろうとすると唇が重ねられて「謝らないで。ヤキモチ妬いてくれたのめっっちゃ嬉しくて、今の俺、超浮かれてるから」と研二さんがくしゃりと笑う。
そのままぎゅううっと抱き締められて「もう離してあげらんないからね」と耳元で聞こえた優しい声に「離されても、行くとこないから困っちゃいます」と笑いながら返して研二さんの背中に手を回す。あったかくて、優しくて。
私のことを、世界中の誰よりも好いてくれている研二さんが堪らなく愛おしくて。縋るように抱き締める力を強めた。