ピンポーンと鳴り響いたチャイムの音に思わず首を傾げた。「こんな時間に誰だろ…」とそうっとモニターを覗けば見覚えのある金色の髪の毛。「今開けまーす」と声をかけてから玄関に向かって扉を開けて「降谷さん!?」と私は目を見開いた。
綺麗な顔に付いた沢山の擦り傷。所々に切り傷もあって、腕や足、体にも大小様々な傷があった。当然服にも赤が染み付いていて「く、来る所はここじゃなくて病院でしょ!?」と声をかけるけれど、ぼんやりと私を見た降谷さんはそのまま玄関に入ってくるなり私を抱き締めた。
縋るように名前を呼ばれて肩口に額が押し付けられる。「降谷さん、どうしたんですか。とにかく、こんな怪我、このままにしちゃダメです。病院行きましょう?ね?」と声をかけるけれど「…いやだ。香澄、香澄…っ、」と益々抱き締める手に力が入る。
何かに怯えるような声色に「降谷さん、大丈夫。ちゃんとここにいますから、ね?ちょっとだけ、離して?」と優しく声をかける。とんとん、と背中を叩けば恐る恐る腕の力が緩んで、泣きそうな顔の降谷さんと目が合った。
「ここにいますよ。ね?大丈夫」と両手で降谷さんの頬を包んでふわりと笑う。手のひらにじんわり伝わる熱は降谷さんが発熱しているからだろう。ゆらゆらと揺れる瞳が私を捉えて「いきてる、?」と降谷さんの小さな声が響く。
「生きてますよ。大丈夫。大丈夫だから、ね?一旦中入って、座りましょう?」と手を握れば、降谷さんがこくりと頷く。玄関の鍵を閉めて、手を引けば靴を脱いだ降谷さんが後ろを着いてくる。
何だか子供みたいだなと笑ってしまいそうになって何とか飲み込む。ソファに座った降谷さんの隣に座って背中を撫でながら「今日も一日お疲れ様でした。沢山頑張ってくれて、ありがとうございます。降谷さんが起きるまで、一緒にいるから大丈夫。ちょっとだけ休みましょう?」とゆっくり声をかける。
「ああ…そう、だな…」と降谷さんの瞼がゆっくり落ちて、そのままソファに横になった降谷さんの額にちゅっとキスを落として「おやすみなさい。降谷さん」と顔にかかった髪の毛を払うようにそっと撫でる。
すぅすぅ、と寝息を立て始めた降谷さんを起こさないように別室からブランケットを持ってきて、ふわりとかければ降谷さんがきゅうっと小さく丸まる。「ふふ、かわいい」と笑みを零しながら諸伏さんの番号を呼び出せば、数回のコールの後に「もしもし?香澄ちゃん?」と焦ったような声が聞こえてきた。
「あ、諸伏さん。こんな時間にすみません。実は、」と話し始めようとすると「もしかしてゼロそっちにいる!?」と先手を打たれてしまい「あ、はい。そうなんです。傷だらけで病院に行こうって言ったんですけど、全然動いてくれなくて…ひとまず私の部屋のソファで寝かせたんですけど…」と話をする。
すると「あー…うん。分かった。今から取りに行くよ」と荷物を引取りに来るかのような言い方をされてしまい、思わず「取りにって…」と苦笑いが零れた。少し待つと『着いたよ』と諸伏さんからメッセージが入るのでそろりと玄関に向かう。
扉を開ければ「ごめんね。こんな時間に」と諸伏さんが申し訳なさそうに眉を下げるから「全然。私こそ、ごめんなさい」と謝る。諸伏さんと一緒にリビングへと戻れば降谷さんは先程と変わらずにすぅすぅと寝息を立てていて「……すごいな。ゼロがこんなに起きないなんて」と諸伏さんが感心したような声を漏らす。
「?そうなんですか?」と首を傾げれば「他の人が傍にいる時は基本的に絶対寝ないからさ」と諸伏さんが肩を竦める。「人の気配に敏感だからすぐ起きちゃうんだけど…香澄ちゃんの家だから安心してんのかもな」と嬉しそうに諸伏さんが笑う。
何となく恥ずかしくなってしまって「そう、だったら嬉しいですね…」とへらりと笑って返す。その後降谷さんを文字通り叩き起した諸伏さんが「ったく…安心して寝れる場所があるのは良い事だけど、せめて治療してからにしろよ」と呆れた顔で降谷さんに言う。
その言葉を聞いて、ようやく自分のいる場所と状況を把握したらしい降谷さんが汚れてしまったソファとブランケット、そして私の部屋着を見て「……悪い」とバツが悪そうな顔をする。
「いえいえ。珍しい降谷さんが見れて、なんて言うか…ちょっと嬉しかったので。気にしないでください」と笑えば「……忘れてくれ」と口元を手の甲で隠しながら降谷さんがぷいっとそっぽを向く。
「ふふっ、嫌です。忘れてあげません。ちゃんと病院で手当してもらって、元気になったらまたゆっくり遊びに来てくださいね」と降谷さんの頭をぽんぽんと撫でれば「うん。ありがとう」と照れくさそうに降谷さんがへにゃりと笑う。
諸伏さんに連れられて帰って行った降谷さんを見送ってから、先程まで降谷さんが寝ていたソファにころんと横になる。ついでに降谷さんがかけていたブランケットもかけてみたりなんかして。
ふわりと香った降谷さんの匂いに頬を緩めながら眠りの海に身を投げる。降谷さんにとって、ここが少しでも安心できる場所になっていることが嬉しかった。