あの日の喧嘩以降、降谷さんとの距離は一気に縮まった。良くも悪くも遠慮が無くなったからか、降谷さんは私の前でも気の抜けた顔をするようになった。チャイムが鳴って「はぁい」と返事をして玄関へ向かう。
先に連絡は貰っていたからきっと降谷さんだろうなと思いながら玄関を開ければ「誰だか確認しないで開けただろ」と降谷さんの眉間に皺が寄る。「だって今から行くって連絡くれたじゃないですか」ときょとんとしながら返せば「だとしても、だ。僕じゃなかったらどうするんだ」とブツブツ文句を言いながら部屋に入ってくる。
「あと、チェーンかけてないだろ」とジト目で私をみる降谷さんに「だって降谷さん来るって連絡来てたし…ただでさえ玄関まで来るのに時間かかっちゃうから、待たせたら悪いと思って」とぶすりと唇を尖らせて不満です、を全面に押し出せば「はぁ…そんなの気にしないから、もう少し防犯意識を高く持ってくれ」と額に手を当てた降谷さんがため息を吐く。
「はぁーい」と適当に返事をしながらぺたぺたリビングに戻れば後ろから「伸ばすな」とお母さんみたいな文句が飛んでくる。「ごめんなさい、お母さん」と謝れば「謝るくらいなら最初からやってくれ」と呆れたように笑いながら頭をぽんと撫でられた。
「何か飲みます?」と尋ねれば「何がある?」と返される。「コーヒーと、紅茶と…あっ、この間降谷さんから貰った良いとこのお茶!それにしましょ!」とウキウキしながら立ち上がってキッチンに向かう。
その後ろをぺたぺたとスリッパを鳴らしながら降谷さんが着いてきて「お手並み拝見といこうか?」と腕を組んで壁に凭れかかるから「え、降谷さんから監視されながら淹れるの緊張する!」と笑いながら準備をする。
「合ってます?」と一工程ごとに降谷さんを見ていたら「あってるあってる」とくすくす笑いながら私の手元を見ていて「間違う前に!ちゃんと教えてくださいね!」と言えば「はいはい」と楽しそうに笑われる。
無事に淹れ終わったお茶を飲んで「はぁ〜美味しいですねぇ」と息を吐けば「ああ、そうだな」と降谷さんもふんわり微笑む。二人でお茶を飲みながら話をしていて、ふと何かを忘れている気がして首を傾げる。
「どうした?」と同じく首を傾げた降谷さんに「あの、つかぬ事を聞きますが…今日はどのようなご要件で…?」と恐る恐る尋ねれば「用が無きゃ、来ちゃダメなのか?」と不満そうな顔で返される。
「いや、そういう訳じゃないですけど…降谷さん忙しいし…」と眉を下げながら言えば「…忙しいからこそ、君に会いたいんだろ」と小さな声が返ってくる。「忙しいと私に会いたくなるんですか?」と意味が分からずにオウム返しをすれば「はぁぁ…絶対君、意味分かってないだろ…」と降谷さんが頭を抱えてしまう。
なんだなんだ、どういう意味ですか。ううん?と首を傾げた私に「好きな子に、時間を見つけて会いに来てるんだよ。忙しいのを理由にして会いに行かずに、愛想尽かされたなんて絶対に御免だからな」と少し頬を赤く染めた降谷さんが手の甲で口元を隠しながらぷいっとそっぽを向く。
その姿に可愛いなぁ…とぼんやり思いながら降谷さんの言葉を反芻して固まった。「え゛っ…?降谷さんって、わたしのこと…好きなんですか!?」と目を見開けば「分かってないだろうなと思ってはいたけど、こうしてここまで驚かれるとムカつくな!?僕がどれだけ君にアプローチしたと思ってるんだ…!」と頭を抱えた降谷さんが文句を言う。
いやだって…急にそんなこと言われても困りますよ…心の準備が…と言いつつ、申し訳ない気持ちも一応はある。「す、すみません…」と小さな声で謝罪すれば「君には遠回しなことも、匂わせも、全部無駄という事が分かった。よし、もう遠慮ははしないからな」と世にも恐ろしすぎる宣戦布告を受けてしまった。
「僕は君のことを恋愛的な意味で好いている。君に振り向いてもらえるように、これから頑張るから覚悟しておけよ」と言いながら普通にお茶を飲む降谷さんに「……もう、好きな場合はどうしたらいいですか」と呟いたら「ブーーッ!」と降谷さんがお茶を吹いた。
「……は?」ときょとん顔の降谷さんに「降谷さんが、私なんかを相手にするわけないって…思ってたんですけど」と小さな声で言えば「君が?僕を?好き?」と驚きで言葉を失っていた。「はい、好きですよ」と真正面から返せば、ぶわりと降谷さんの顔が赤くなった。
「自分から言ったのに、照れないでくださいよ」と釣られて顔が熱くなってぷいっとそっぽを向く。「本当に?冗談とかじゃなく?」と首を傾げる降谷さんに「あんまりしつこいと冗談にもできますけど」と可愛くない返事をすれば「それは勘弁してくれ。君に嫌われたらショックで三日は寝込む」とドヤ顔で返される。
そのまま立ち上がって私の隣に膝を着いた降谷さんが私の左手を取る。「僕と、お付き合いしてもらえますか?」と真っ直ぐな告白に「……ッはい!こちらこそ、よろしくお願いします」と微笑んで返す。
嬉しそうに笑った降谷さんが恭しく、私の左手の薬指にキスを落とす。あの日、喧嘩も仲直りも、色んなことが生きているからできるんだと知った。降谷さんとの喧嘩も、恋も、仲直りも、愛も。今こうして一緒にいられるのも全部、生きているからなんだと思ったら嬉しくて涙が溢れて止まらなかった。