元々萩原さんに甘やかされている自覚はあったけれど、お付き合いを初めてから、それはもっとずっと顕著になった。「香澄ちゃん」と蕩けるような甘い声で名前を呼ばれてぎゅうっと抱き締められる。
些細なことでも「ありがとう」と笑って優しく頭を撫でてくれる。そんな萩原さんに何をしてあげられるだろう、何ができるだろう、と考えてみても中々思い付かない。「香澄ちゃん?どうかした?」と首を傾げる萩原さんに「何でもないですよ」とへらりと笑って返すと萩原さんはちょっぴり不満そうに唇を尖らせる。
「えぇ…絶対何かあるじゃん。俺には内緒なの?」と後ろからぎゅっと抱き締められて肩に顎が乗せられる。「内緒じゃ、なくて…」と言葉に詰まれば「うん。なぁに?」と甘い声が耳に残る。
「あの、その、笑わないでくださいね…?」と前置きをしてから「いつも、大事にしてくれるから、何かお返ししたいなって…思って…」と呟けば、萩原さんが私を抱き締める手に力が入る。
「なにその可愛い理由…」と私の肩にぐりぐり額を押し付けてくる萩原さんのせいで、ぶわりと顔が熱くなる。「じゃあさ、一個おねがい」と萩原さんが楽し気な声をあげるから「は、はい!」と返事をすれば「俺の事、名前で呼んで?」と微笑みかけられる。
「ぅえ、?」と目を瞬かせれば「ずっと萩原さんって呼んでるじゃん?もう付き合ってる訳だし…いずれは香澄ちゃんも萩原さんになるでしょ?それに姉ちゃんばっかり名前で呼ばれてんのもやだし」と唇を尖らせた萩原さんが何だか小さな子供みたいでふふ、と笑みが零れる。
「あ、今子供っぽいって思ったでしょ?」と拗ねたように言った萩原さんが私の脇腹をくすぐる。「あははっ!やだ、くすぐった、あははっ!」と思わずソファにころん、と転がれば、それを追いかけてきた萩原さんが私の上に覆い被さる。
まだキスすらしていない私にとって、この姿勢は想定外だった。「ぁ…っ、あの、」と萩原さんの名前を呼ぼうとすれば「名前、呼んで?」と人差し指が私の唇にそっと触れる。「っ、けん、じさん、」と震える声で名前を呼べば、とろりと眦が下がって「ん、なぁに。香澄ちゃん」と返される。
「け、研二さんが、呼んでって言うから…!」と真っ赤な顔で視線を泳がせれば、ぽすりと肩口に研二さんの頭が落ちてくる。「あー…やばい、だめだ。めっちゃすき、」と呟く声が、甘くて、蕩けそうで、思わず「んぅ、」と声が漏れる。
「香澄ちゃん、今、怖くない?」と少し体を離した研二さんが私の頬を指で撫でるから「こわ、く…ない、です」と呟く。心臓がバクバクと音を立てて、研二さんが触れる場所が全部熱い。
「キスしていい?」と大きな手のひらで頬を包まれて、親指が唇をするりと撫でる。「ぇっ、ぁ、う…」と視線をうろうろと彷徨わせてから研二さんの目を見て、こくりと頷く。「目、閉じて」ともう一度唇を撫でられて、ぎゅっと目を瞑れば唇が重なって、ゆっくりと離れていく。
ほんの一瞬なのに、永遠に感じるほど長くて、止めていた息を吐く。そろりと目を開けて研二さんの名前を呼べば、ギラついた目が私を見る。きゅうっと喉が鳴って、何も言われていないのに、これからまたキスをするんだと本能で分かった。
きゅっと目を瞑ればもう一度唇が重なって、離れていく。頬、瞼、額。ちゅ、ちゅ、と繰り返されるキスに頭が追いつかなくて、ぎゅうっと自分の服を握り締めて、キスを受け入れる。ちらりと研二さんを見れば、ぱちりと目が合って「かわいい」と頬を撫でられる。
その視線で「ぁ…、ぅあ、」とキャパオーバーしてしまった私は「も、もう、きょうはおしまい…!」と自分の顔を腕で隠してそっぽを向く。全身が熱くて、何が何だか分からない。「ごめん、がっつきすぎたな」と背中に手を回してゆっくり体を起こしてくれた研二さんに「ぅぅ〜…ごめんなさい、なれてなくて、」と小さな声で謝れば「俺の方こそ、ごめんな」とこめかみにちう、と唇が落とされる。
「これから、ちょっとずつ慣れていこうな」と笑った研二さんに「は、はい…」と真っ赤な顔でぷしゅう、と俯く。それからというもの、事ある毎に頬やら額やらにキスをされ、真っ赤になって抗議の声を上げれば遮るように唇にキスをされる。「ど?慣れた?」と悪戯っ子のようにくすくす笑う研二さんに「慣れません…!」と返した。