少しずつ慣れていく

松田さんは前から私の頭を撫でるのが好きだった。安心させるようにぽん、と撫でる手。何かを誤魔化すようにぐしゃぐしゃ、と撫でる手。お付き合いを初めてからは、それに新しい撫で方が加わった。

後頭部に回された手がくしゃりと髪の毛を握るように撫でてから、そうっと離れていく。まるで離したくないと言うように、そうっと離れていくから何だか私まで寂しい気持ちになる。

「あの、松田さん」と隣に座っていた松田さんに声をかければ「ん?どうした?」と私を見る。それからするりと手が伸びてきて、顔の横の髪の毛をすっと耳にかける。そのまま耳の後ろを擽るように指が撫でて、ゆっくりと後頭部に手が回る。

眦をとろりと下げながら、私の頭をくしゃりと撫でる松田さんに、心臓がきゅうっと締め付けられる。「あ、あの、」と松田さんの服をぎゅっと握れば「ん?」と松田さんが私の言葉の続きを促す。

「その、えっと、あたま…なでてくれるのは、うれしいんですけど…!あの、なでかたが、どきどき…します、」と正直に伝えれば、松田さんは目を見開いてピシリと固まった。何か、私は変なことを言ってしまったのだろうか。

緊張する私に向かってふわりと笑った松田さんが「ふぅん…ドキドキすんの?」と私の髪の毛をくるくると指先で弄ぶ。「ど、どきどき…します、」と返せば「なんで?」と首を傾げられる。

「えっ、な、何で…?なんで、…えと、撫でられると、ぞわぞわするから…?」と同じように首を傾げれば、松田さんは再び目を見開いてピシリと固まる。だ、だから何でそんな顔するんですか!と心配になりながら松田さんを見つめれば「へぇ…ぞわぞわ、ねぇ…?」とニヤリと笑った松田さんが私の後頭部に手を回す。

あ、嫌な予感…と思った時には遅かった。するり、と首筋を撫でるような手つきに「ん…っぅ、」と声が漏れる。やだ、ぞわぞわする。「まっ、まつださ、それやだぁ…っ、」と縋り付くように松田さんの服を握り締めれば「嫌なのかよ」と髪の毛を梳くように優しく撫でられる。

触れられる所が全部熱くて、痺れるみたい。後頭部にあった手が耳の横を撫でて、頬を包む。親指で目元をするり、と撫でられて「香澄、キスしていいか?」と尋ねられる。

ビクリと肩を跳ねさせて「そういうの、聞くものなんですか…?」と恐る恐る聞けば「他は知らねぇ。が、お前を泣かせたい訳じゃねぇから聞いてる」と返されて、その優しさにクラッと来てしまった。

返事ができずに固まっていれば「十分、待ては出来たと思うんだが…どうだ?」と今度は親指で唇を撫でられる。するり、と唇の上を滑っていた指が、閉じていた唇をぐいっとこじ開けてくる。「んぅっ、」と声を漏らせば「なぁ、ダメか?」と松田さんが頼み込んでくる。

この、捨てられた子犬のような目に私が抗えたことは一度もない。こくり、と頷いて返せば、ふっと微笑んだ松田さんが私の唇にちう、と吸い付く。すぐに離れた唇に終わったかと油断したのも束の間、すぐに二度目のキスが降ってくる。

離れ際にぺろりと唇を舐められて思わずピッ!と背筋が伸びた。「い、いま…!」とわなわな震えていれば「キスしていいんだろ?」と悪い顔で笑った松田さんが再び口付けてくる。下唇を食むような触れるだけのキスに頭がくらくらする。

松田さんの胸元をぐいぐいと押してみても、びくともしないどころか私の後頭部に回した手に益々力が入って逃げられない。恥ずかしすぎて耐えられなかった私が、ぽろっと涙を零して「ま、って、」と呟けば、ビクッと肩を震わせた松田さんが両手をあげて私から離れる。

「わ、悪い、調子乗った。嫌だったか…?」と恐る恐る尋ねてくる松田さんに「ち、ちが…っ、恥ずかしすぎて、きょうは、もう…っおしまいが、いい…です、」と両手で顔を覆ってぷしゅう…と俯けば「悪い。急ぎすぎたな」と松田さんが私の背中をそっと撫でる。

不甲斐なさすぎて泣けてきた。ぷるぷると震えていれば、頭上からくつくつ喉を鳴らして笑う声が聞こえてきて、ちらりと視線を向ければ松田さんが楽しそうに笑ってる。「…なんですか」とジト目を向ければ「いや?恥ずかしすぎてってことは、嫌ではねぇんだろ?」と指の背で頬を撫でられる。

「そうですけど…」と怪訝な顔で返せば「んじゃ、シンプルに慣れりゃいい」と頬を撫でてた指が再び唇を撫でるから顔が熱くなった。
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