宝石も空中散歩もいらない

「そ、園子ちゃんの裏切り者!!」と叫んだ私に「人聞き悪いわね。私はちゃんと伝えたわよ。宝石見に行きましょ、ってね」と園子ちゃんが悪戯っ子のように笑うから私はガックリと肩を落とした。でもキッドが来るなんて聞いてないもん!

「やだやだ!!つまり事件じゃん!!イケメンじゃん!!」と半泣きの私に「事件は一旦置いとくけど、何だってそんなにイケメン嫌いなのよ」と園子ちゃんが首を傾げる。「イケメンと一緒にいると事件に巻き込まれる率が上がるの。嫉妬だの痴情のもつれだの、そういうのが一番怖いのよ。分かる??」と真剣な顔で迫る私に「せ、切実ね…」と園子ちゃんが苦笑いを零す。

「でもキッド様は観賞用じゃない!直接関わる訳じゃないし、巻き込まれる可能性は限りなくゼロよ!大丈夫大丈夫!」と親指をグッと立てた園子ちゃんに「それも、そうか…」と納得した私が間違ってました。

「おろして……もうやだ……」と両手で顔を覆って泣く私と「おや、良いんですか?私が手を離せば、貴方は夜の海に真っ逆さまですよ」と楽しそうに笑うキッド。頬を撫でる冷たい風とぷらぷらと不安定に揺れる足。

「もういい…それでいい…どうせ死ぬなら誰にも気付かれずにひっそり死ぬ…」と呟いた私に「え゛ッ」とキッドが戸惑いの声を漏らす。「黙って宝石だけ持ってってよ!!」「空中散歩はお好みでは無かったですか?」「空中散歩はどうでもよくて貴方をお呼びじゃないだけですけど!?もういっそ殺して…」と文句を言っていればふわりと風がやんで、地に足が着く。

「さて、ここまでお付き合い頂きありがとうございます」と私の前でキッドが恭しく頭を下げる。するりと右手を取られて、薬指にキッドが盗んだはずの指輪が嵌められた。「いらないんですけど!?」と叫ぶ私にくすくすと笑みを零したキッドは膝をついて、私の手の甲にちゅっとキスを落とす。

「今宵はレディと夜の空中散歩が出来たことを、心より嬉しく思います」と微笑んだキッドに「……は、」と間抜けな顔で口を開ける。そんな私にパチリとウインクをしたキッドが「次こそ、貴方を楽しませてみせますよ」なんて、茶目っ気たっぷりに笑ってどこからか真っ赤なバラを出す。

「それでは、今宵はこちらで失礼いたします」と目の前から消えたキッドに向かって「に、二度と来んな!!」と叫んだ声は誰にも届かずに夜の街に消えていった。「お姉さん!!無事!?」「きゃーーー!?!?」「キッドは!?」「知らないよ!!何よ次って!!次なんか無いよ!!二度と来んな!!」「お姉さん何でそんな荒ぶってるの……」「ははっ、殺害予告されて荒ぶらない人っていると思う??」「何の話してるの??」

(オマケ)「オメー、お姉さんに何したんだよ」「面白い人だな、あのお姉さん。俺に抱えられてる間ずっと殺してって泣いてたぜ」「面倒事に巻き込まれたくなさすぎてイケメン恐怖症を発症してんだよ」「え、何て??」「お前にも会いたくないって半泣きだったのにオメーに連れてかれて大荒れだったぜ」

「ハハッ!そう言えば俺があの人の傍を離れる時も二度と来んなって叫んでたな」「オメー…またちょっかいかける気だろ」「え〜?まっさかぁ〜」「悪趣味だな、オメー。あの人にちょっかいかけると厄介な人たちが出てくるぞ」「厄介な人たち?」「俺は忠告したからな。お姉さんにちょっかいかけんなよ」
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