あの後、どうにも居心地が悪くて「帰ります。ご馳走様でした」と立ち上がった私を諸伏さんが慌てて追いかけてくる。帰り道の会話は無し。家に着いてからも「今日、ご飯いらないんで」とだけ伝えて自室に引きこもった。
あーあ、友達いなくなったな。とぼんやり天井を見つめて、ほんの少しだけ寂しくなった。「……べつに、さいしょからそんなにすきじゃないし」と自分に言い聞かせて無理やり眠りについた翌日の朝。
何となく諸伏さんと顔合わせるの気まずいなあ…なんて思いながら起きてきた私はリビングに集まる萩原さんたちを見て「は?」と眉間に皺を寄せた。悪い夢だな、これ。バタン、と扉を閉めて自室に引き返す。
「これが夢遊病か…」と呟きながらぺたぺた歩いていれば「ちょっっとまって、何で帰ろうとしてんの」と後ろから萩原さんに腕を掴まれる。「……夢?」と首を傾げれば「超現実。ほら、顔洗っておいで」と洗面所に突っ込まれて、よく分からないまま顔を洗う。
冷たい水でようやく意識が覚醒してきて、歯を磨いてるうちに段々と状況が飲み込めてきた。「いや、おかしくない??」と首を傾げながらリビングに向かって扉を開ければ、やっぱり夢じゃない。
「おはよ、香澄ちゃん」「よぉ、邪魔してんぞ」「おはようございます。朝ごはん、できてますよ」と当たり前の顔をして居座る萩原さん、松田さん、安室さんの姿に「なに、してんですか」と尋ねれば「突撃隣の朝ごはんされちゃった」と諸伏さんが笑いながらキッチンから顔を覗かせる。
いや、てへっ、じゃないんですよ。何ですかその三十路とは思えない笑い方。「そっすか」と考えることを止めてキッチンに入り自分のマグカップを取り出してコーヒーを入れる。
「朝から元気ですね。何しに来たんですか」とコーヒーを飲みながら尋ねれば「え、香澄ちゃんが俺たちを友達認定してくれたから遊びに来た」と萩原さんに返されて思わず顔が死んだ。
マジで何なんだ、この人たち。「つーか寝癖すげーぞ、お前」とけらけら笑いながら私の頭に手を伸ばす松田さんの手を「触んないでください」とびしりと叩けば「なにすんだコラ」と片手で両頬をむぎゅりと潰される。
「んぎゅ、はにゃひへくらはい」と文句を言えば「寝起きだからか、覇気が無いですね」と安室さんがくすくす笑う。うるせえやい。寝起きであんな大声出せないですよ。それに、自宅では何してても誰にも見られないから刺される心配も無いって最近気が付いた。
やっぱり私には人目に触れない引きこもり生活が似合っているんだ、と主張したけど諸伏さんからは既に片手では足りない回数分、拒否されている。そろそろ良いよって言って欲しい。
「折角だし皆でご飯食べようよ。ほら、松田もそろそろ手離して」と笑いながら朝食を持ってきた諸伏さんによって松田さんの手から解放される。いつもと変わらない態度と笑顔に、ほんの少し安心したことは口が裂けても絶対に言わないと心に誓って箸を持った。