平気だと思っていたけれど、思っていたよりも平気じゃなかったみたいだ。自分に影がかかると、あの日がフラッシュバックする。男の影と、私をこれでもかと痛めつける手。彼らにその気が無いことは分かっているし、疑ってもいない。
でも、私の頭はあの日と切り離して考えてくれなかった。ビクリと肩を揺らして謝る私を見て、彼らは酷く悲しい顔をした。申し訳ないとは思ってる。何もしていないのに怯えられて、良い気分なんてしないだろう。
何度かそれを繰り返しているうちに、彼らは私の病室にやって来なくなった。ちょっとしたじゃれ合いを本気にして怯えて、怖がって。そりゃ面白くも何とも無い。いずれ、こうなるだろうと思っていた。
それが、遅いか早いかの違いだ。私の過去を話した日、何も変わらなかった彼らを見て、ほんの少しだけ期待をした私がいた。いて、しまった。小さくため息を吐いて、嫌なことは寝て忘れてしまおうとベッドに潜り込もうとした瞬間だった。
「香澄さん」と声をかけられてビクゥッ!と肩が跳ねた。「うぉわぁっ!?えっ、なっ…コナンくん、いつの間に…」とバクバクと音を立てる心臓を押さえながらベッド脇に立つコナンくんを見つめる。
ほ、本当にびっくりした。いつ入ってきたの、あなた。「怪我、大丈夫?」と首を傾げるコナンくんに「あ、うん。怪我は、うん。平気」と戸惑いながら返事をすれば「安室さんから、聞いたよ」とコナンくんが視線を落とす。
聞いた、のはどこまでだ。何を聞いたんだ。「そう、」とだけ返してコナンくんをじっと見つめれば「……安室さんたちのこと、怖い?」とコナンくんがそろりと私を見上げる。「そ、そりゃあ…私の命の危険があるし…」と返せば「そうじゃなくて!」とコナンくんがきゅうっと眉間に皺を寄せる。
「あぁ、もう…!そういうのじゃなくて!安室さんたちがお見舞いに来るの、香澄さんは嫌?」と真っ直ぐな瞳に見つめられて、きょとりと目を瞬かせた。私は、彼らが『嫌』なんだろうか。
「……分かんないんだよね」と呟いた私にコナンくんは優しい顔で「何が、分からないの?」と尋ねる。私は、何が、分からないんだろう。「私の気持ちも、安室さんたちの気持ちも、分かんない」と返せば「うーん…じゃあ、🌸さんは安室さんたちにお前のことなんて嫌いだ!って言われたらどう思う?」とコナンくんが首を傾げる。
胸がつきりと痛んだ。彼らに嫌いだと拒絶されることを想像したら眉間に皺が寄る。「……いや、かも」と呟けば「そっか。じゃあ、香澄さんは安室さんたちに向かってお前のことなんて嫌いだ!って言える?」とコナンくんが再び尋ねる。
私は、安室さんたちに面と向かって嫌いだと言えるだろうか。「……言えない、かも」と手を握り締めた私に「どうして?」とコナンくんがにこりと笑う。どうして、と言われても。「だって、安室さんたちを、傷付けちゃう」と小さな子供のように、ぽつりぽつりと口にすれば「うん。そうだね」とコナンくんがふんわり笑って小さな手を私の手に重ねた。
「それはさ、香澄さんにとって安室さんたちが大事な人って意味じゃないかな」と私の顔を覗き込んだコナンくんは言葉を続ける。「安室さんたちに嫌われたくないって思ったり、会えなかったり話せなかったりすることを寂しいと思ったりするのは、香澄さんが安室さんたちを大事に思ってるからだよね」と私の手をぎゅっと握り締めたコナンくんをじっと見る。
視界が、ゆらゆらと揺れて、滲んでいく。「香澄さんが安室さんたちを大事に思ってるように、安室さんたちも香澄さんを大事に思ってるよ。もちろん、僕も香澄さんに早く元気になって欲しいし、もっと仲良くなりたいなって思ってるよ」とコナンくんが笑う。
「安室さんたちがね、行く度に香澄さんを怖がらせちゃうから行かない方がいいんじゃないかって」と言いながらコナンくんが私の手をとんとん、と叩く。まるで、あやされてるようだった。
「それでも香澄さんは安室さんたちに来て欲しいって思ってると思うよって言ったんだけど、安室さんたちがそれはどうだろうって言うんだ」とムッとしたような顔をするコナンくんに苦笑いが零れた。
「大人ってさ、変な所で気使うよね」と不満そうに唇を尖らせたコナンくんに「そう、だね」と返せば「ちゃんと、話した方がいいよ。すれ違ったまま、二度と会えなくなっちゃうこともあるんだから」と寂しそうに呟いたコナンくんにぎゅっと胸が痛くなる。コナンくんの小さな頭をそっと撫でれば、ぱちぱちと目を瞬かせて私を見るから「ありがとう、コナンくん」と自然と笑みが零れた。
「あとさ、詳しいことは分かんないし、香澄さんが話したくないことなら無理には聞かないけど、僕とももっと仲良くしてよ。香澄さんいつも僕のこと見て逃げるじゃん?」とこてん、とあざとく首を傾げたコナンくんに「……い、イケメンの遺伝子が…すごいね…それは、なに…?狙ってやってるの…?」と怯えながら尋ねれば「イケメンの遺伝子って…」と呆れた顔をされてしまう。「ただの小学生相手にそんな顔しなくても…」と呟いたコナンくんに「あ、はは…」と苦笑いを返した。