思っていることを伝えるのは難しい

私の言葉に、真っ先に反応したのは諸伏さんだった。「俺たちが香澄ちゃんに嫌われる理由はあっても、俺たちが香澄ちゃんを嫌いになる理由なんて、一つも無いよ」と優しい声が響く。

ハッと顔を上げれば「俺たちのこと、責めないでくれてありがとう」と優しく微笑みかけられる。「香澄ちゃん、俺たちのこと、嫌いにならないでくれてありがとう」と萩原さんがベッドに放り出されたままの手をぎゅっと握る。暖かくて、優しい手だった。

「もっと、怒ったり、文句言ったりしろよ」と泣きそうな顔で私を見た松田さんがへにゃりと眉を下げて笑う。松田さんにしては、珍しい笑い方だった。

「全てが終わったら、あなたに話したいことがあるんです。だから、それまで…少しだけ、待っていてくれますか?」と困ったように呟いた安室さんに、こくりと頷くと「ありがとうございます」と安室さんはふんわり優しく微笑んだ。

「まだ、怖くて、驚いたりすることはあるかもしれないんですけど…っ、皆さんが怖いとか、嫌いとかじゃないです。ちゃんと、大事に、思ってます」とコナンくんに教えて貰った通り、素直に思いを伝えた。

自分の気持ちを正直に伝えることは、こんなにも難しいことだっただろうか。バクバクと音を立てる心臓が、痛くて、苦しい。そんな私の不安を吹き飛ばすように「俺たちのこと、大事って思ってくれてるの?」と萩原さんが嬉しそうに笑う。

「ぅえ、えっ、あの、」と言葉に詰まれば「つまり、いつもの拒否も照れ隠しだった訳か」と松田さんがニヤリと意地の悪い顔で笑う。さっきまでのしおらしさはどこ行っちゃったんですか。

「〜〜ッう、うるさいですね…!都合の良いとこだけ拾わないでくださいよ!」とぶすりと不貞腐れたように唇を尖らせる私に「そりゃ、ズルい大人だもん。都合の悪いことは聞き流すんだよ」と諸伏さんがクスクス笑いながら言う。

な、なんてこと…!これだから大人は!と自分のことを棚に上げて文句を言えば、楽しそうに笑った安室さんが「そうですね。大人はズルい生き物ですから」と意味ありげな顔で私を見る。な、なんですか本当に。

「それ、どういう意味ですか…?」とジト目で尋ねれば「追々、あなたにはお伝えしたいことがあるので。楽しみにしていてくださいね」と綺麗な笑顔で微笑まれる。物凄く嫌な予感がすると思った私の予想が正しかったことを知ることになるのは、もう少し先の話。

そして、この日を境に彼らは「お仕事暇なんですか?」と私が本気で心配をするくらい頻繁に病室にやってくるようになった。「暇じゃないけど暇にしてる」「正しい日本語でお願いします」「お前のために無理やりこじ開けて来てんだよ」「それもそれで気使いますね。お仕事に戻ってください」

「一分でも一秒でもちょっとでも多く香澄ちゃんに会いたいからさ」「……よくもまぁ、そんな歯の浮くセリフが言えますね」「それに、僕たちに会えないと悲しいんでしょう?」「そっくりそのままお返ししますが」と病室に来る度に軽口を叩き合う。

やって来て数分で出ていったりすることも多くて、本気で心配をしている。来なくていいからお仕事行きなよ。なんて苦笑いをしながらも、嬉しいことに変わりはなくて。そんなふうに思えるきっかけをくれたコナンくんにお礼をしたかったのに、彼は突然海外に行ってしまった。
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