ただ買い物をしていただけだった

ただ、買い物をしていただけだったのに。「お、香澄ちゃんだ。何してるの?」と背後から聞こえてきた声と、ずしりと肩にのしかかる重み。聞き覚えのありすぎる声に恐る恐る振り返って思わず悲鳴を上げた。

「ひぇっ、あっ萩原さん…!?か、肩を組まないでください!こっち見ないで!刺される!」と必死に萩原さんから距離を取ろうとしているのに、何故か肩に回された手に力が込められて抱き寄せられる。

「はいはい刺された刺された。はいぐさー」とまるでナイフを持っているかのように手をグーにした萩原さんが、その手を私のお腹に向けてくるから「お腹触んないでくださいよぉ…!」とやっぱり我慢できずに両手で顔を覆う。

「おいハギ、それアウトな」と呆れた顔をする松田さんに「うっそ!?どっから!?」と萩原さんが目を丸くする。「全部」と端的な回答に「え〜〜コミュニケーションじゃん?それに肩は組んだけどお腹は触ってないし?」と萩原さんが首を傾げる。

そういう問題じゃない。というか肩を組むのも許した覚えはない。「肩組まないでって言ったのにぃ……」としくしく泣けば「ほれ、ハギんとこにいるともっと触られるぞ」と松田さんが両手を広げて私を見てくる。

「ちょっと陣平ちゃん言い方」とムッとした顔をした萩原さんに再びぎゅっと抱え込まれて、とうとう言語すら失った。「ワッ、ワァ……」と小さく声を漏らした私を見て「あ、泣いちゃった」と萩原さんが驚いた声を上げる。

言葉を失って震えるばかりの私がツボに入ったのか松田さんは口元を手で覆いながら肩を震わせて「ふっ…くくっ…」と笑っているから「なんで私に構うんですか…!もっと可愛くて素直な子いっぱいいるでしょ…!」と抗議の声を上げる。

私じゃなくてもいいじゃないか、と言う私を見て、ふっと表情を緩めた萩原さんが「香澄ちゃんも可愛くて素直な子じゃん」と私の頭をぽんぽんと撫でてくるし松田さんも「お前の場合、良くも悪くも素直すぎるけどな」と笑いかけてくる。

「曲解!!曲解ですそれ!!もうほっといてくださいよぉ…」とイケメンのファンサから逃げるように頭を下げる。顔を覆って俯いていれば「ほっとくと香澄ちゃんはすぐ事件に巻き込まれちゃうからなぁ」と困ったような萩原さんの声が聞こえてきて「ウッ…」と思わず胸を押さえてしまった。
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