「体調悪いんならさっさと連絡しろ、このバカ」と私の額に乱暴に熱さまシートを貼り付けた松田さんがため息を吐く。「ただの熱だし…すぐ治るし…」とけほけほ咳をしながら返せば「治ってねぇから俺が来てんだろ、バカ」と体温計を渡されて大人しく受け取る。
ピピッと音を立てた体温計は松田さんの手に攫われて「38.7…高ェな。これいつからだ」と尋ねられるから「……昨日」と返せば「今ならまだ見逃してやる。いつからだ?」ともう一度聞かれて「……一昨日」と返す。
なんで分かるんですか。ぶすっと唇を尖らせる私に「明日になっても下がらなかったら病院連れてくからな」と私の頬に手の甲を当てた松田さんが険しい顔をする。「いいです。一人で行きます」と返せば「どうやって行くんだよ」と松田さんの眉間に皺が寄る。
「歩きます」「バカか」「さっきからバカバカ言い過ぎじゃないですか」「お前がバカなことばっかりするからだろ」と松田さんが私の鼻をむぎゅりと摘む。「大体、私が熱出そうと何しようと松田さんに関係ないじゃないですか」とそっぽを向いて布団の中に潜り込んだ私の頭をそっと撫でた松田さんが「好きな女が体調悪いんだから、心配して当然だろ」と呆れたような声で言う。
「は…?」と固まった私に「冷蔵庫にゼリーとか色々入れてっから食えそうなら食えよ。あと鍋におかゆあっから、そっちでもいいし好きな方食え。んでテーブルの上に薬置いとくからちゃんと飲めよ。水はここに置いてく。明日の朝また来るから、鍵借りてくぞ」と流れるように告げて立ち上がった松田さんの服の裾を思わず、きゅっと掴む。
「どうした?吐きそうか?」としゃがみ込んだ松田さんに「いま、なんて、」と熱でぼんやりする頭で尋ねれば「だから、冷蔵庫にゼリー…」と不思議そうな顔で返されるから「ちがう、そっちじゃなくて、」と思わず突っ込む。
けほけほと咳が出て、頭がぼうっとする。今、この人、なんて言ったんだ?「好きな女の心配すんのは当然だろって言ったんだよ。お前の熱が下がって元気になったら、ちゃんと伝えてやっからいい子で寝てろ」と今までに見たことがないくらい優しい顔で笑った松田さんが私の頭を撫でて、それから額にキスを落とす。
「まだちゃんと返事聞けてねぇから、熱さま越しで我慢しろよ」と笑った松田さんが、もう一度私の頭を撫でて「おやすみ」と笑う。体調が悪いのか、松田さんのせいなのか、一気に体温が上がった気がして体が重くなる。
熱のせいだと自分に言い聞かせて、縋るように松田さんの服の裾を握り締めた。「ったく、いつもこんくらい素直になれねぇもんかね。バーカ」と楽し気に笑って私の頬を撫でた松田さんが帰れなくなって、寝落ちしたことを知らない私は翌朝、松田さんに抱き締められて寝ていることに気が付いて「〜〜ッ!?なっ、な、…ッ!?」と言葉を失うことになった。
何てこと無さそうな顔で起きた松田さんが「…あ?お前、顔赤ぇな…まだ熱下がってねぇのかよ」と言いながら私に触れるものだから「さ、さわんないで、ばか…!なんで、ここでねて…!」と抗議の声を上げる。
「は?お前が俺の服掴んで離さないから帰れなかったんだろうが」と後頭部をがりがりと掻いた松田さんが私の首筋に手を当てて「だいぶ下がったな。頭痛いとか、気持ち悪いとかねぇか?」と尋ねてくる。
「な、ないです…けど…」と返せば「ならシャワー浴びれそうなら行ってこい。飯は?食えそうか?」と聞いてくるから「ちょっとなら…」と返す。何でこの人こんなにいつも通りなんですか。意味が分からない。
怪訝な顔で松田さんを見ていれば「ふはっ、別に病人襲ったりしねぇよ。ちゃんとお前が全回復するまで待ってやる。だから早く治せよ」と楽しそうに笑って私の頭をくしゃりと撫でる。
「さっさと行ってこい。それとも、俺が入れてやろうか」とニヤリと悪戯っ子のような顔で笑った松田さんに「〜〜ッいらない!」と枕を投げ付ければ「おーおー元気じゃねぇか」とけらけら笑われた。