流れるように向かいの席に着席した萩原さんは「俺、萩原研二って言うんだ。よろしくね」「実は俺おまわりさんなんだ。見えないでしょ?」「ここ初めて来たけどコーヒーめっちゃ美味しいね」「よく本読むの?オススメとかある?」とさすがの話術で、気付いたら私の名前、職業、趣味などをペラペラと話してしまっていた。
ハッと気付いた時には「今度ゆっくり出かけようよ。香澄ちゃんの連絡先、聞いてもいい?」と連絡先を交換していた。どうしてですか。「それで、今日は香澄ちゃんに聞きたいこと、というか話したいことがあるんだ」と萩原さんがふわりと微笑む。
「な、なんでしょう…」と少し警戒しながら返せば「ああ、違う違う!降谷ちゃんみたいに圧かけに来た訳じゃなくて」「おい」「何さ。泣かせたのは事実だろ」「うぐ…っ、」と降谷さんにジト目を向けた萩原さんが私の前にスッと封筒を差し出す。
「この手紙が無かったら、俺は死んでたんだ。今日この日まで、俺が生きていられたのはこの手紙のお陰で、俺はこの手紙の差出人を7年間ずっと探してた。お礼を言いたいんだ。この手紙のお陰で、この手紙を書いてくれた子のお陰で、俺は今を生きてる。だから、この手紙の送り主をずっと探してるんだ」と愛おしいものを見つめるような、酷く優しい顔で封筒を見つめた萩原さんが、人差し指で宛名をそっとなぞる。
それからその封筒を持ち上げて、ちゅっとキスをする。「この手紙は俺のお守りで、手紙を書いてくれた子は神様みたいな存在だと思ってるんだ。だから、君がこの手紙について少しでも知っている事があるなら教えて欲しいんだ。どんなに些細なことでもいい。お願いします、香澄ちゃん」と頭を下げた萩原さんに何も言えず言葉に詰まる。
私の手紙が、彼らを救っていた?そんな、都合の良いことが本当に起きているというのか。私にとって、あまりにも都合が良すぎている。でも、彼らは生きている。そして、彼らの生存に少なからず私の手紙が影響を及ぼしている。
あんなにも願い続けた未来が、ここにある。萩原さんが死んで、松田さん、諸伏さん、伊達さんと、次々に命が失われていった。降谷さんが一人ぼっちになって、公式から過去のストーリーが公開されて、過去が色付けば色付くほどに、私の心はぼろぼろになった。
でも、この世界で、彼らは生きている。そう思ったら、止まったはずの涙が再び溢れ出して、止まらなくなった。「死んでほしくなかったんです…っ、降谷さんが、ひとりぼっちに…っなっちゃって…っ、萩原さんも、松田さんも…っ、みんな、どんどんいなくなっちゃって…!」と声が震えて喉が引き攣る。
「気持ち悪いことしてっ…ごめんなさ、い…っ、!だって、どうしても、生きててほしかった…!むりでも、なんでも、ありえなくても…!すがりたかったの、ごめんなさい…っ、ごめんなさい…!」と両手で顔を覆って泣きじゃくる。もうダメだ。最悪。ただの気持ち悪い怪しい女だ。
二次創作の物語に出てくる人たちはどうしてあんなに平然を装っていられるんだろう。私なんて、彼らを目の前にしていつも通りに振る舞うことすらできないのに。ああ、もう。泣きすぎて頭も痛いし、咳も出る。
けほけほ、と咳をしながら泣きじゃくる私の手首がぎゅっと掴まれる。「ぅえ、」と顔を上げれば私を見つめた萩原さんが、それはもう、甘い顔で「みつけた」と表情を蕩けさせる。
「はぎ、わらさ…ん、?」と名前を呼べば、肩に腕が回されてぐっと引き寄せられる。「やっぱり、君だったんだな」と先程まで静かに話を聞いていただけの降谷さんが私の肩を抱いて、萩原さんと同じようにとろりと眦を下げる。
ぽろ、ぽろ、と零れる涙を降谷さんの指が拭って、頬を撫でる。「ちょっと降谷ちゃん。ズルくない?」「隣の席に座った奴の特権だろ」「じゃあ俺も隣に座る」「いや無理だろ」と私を挟んで言い合いをする二人にどうしたらいいのか分からず、きょろきょろと視線を彷徨わせていれば、こちらを見る目とぱちりと目が合った。