突然の公開処刑に耐えられなかった

至って、普通の日常だった。仕事に行って、帰りにスーパーに寄って。休みの日はお出かけもしたけれど、特別誰かに会うことも無かった。強いて言えば、毎日のようにニュースで工藤くんを見かけることくらい。

思っていたよりも「…今まで通りだ」と私は一人、休日を謳歌していた。同期に教えてもらった隠れ家的カフェは落ち着いた雰囲気でうっかり数時間は滞在できてしまいそうな快適さ。

飲み物や軽食も量が多いのにお値段は財布に優しくて、ここで読書をするのが最近のマイブームだった。黙々と文字に視線を走らせて、カップに手を伸ばそうとして、はたと気付いた。向かいの席、誰か座ってない…?恐る恐る視線を上げるとそこに座っていたのは降谷さんだった。「ふっ…!?」と思わず名前を呼びそうになって慌てて口を押さえる。

な、なに…!なになに何でここに…!?混乱しながら降谷さんを見て固まっていれば「二度目まして、ですね」とふわりと微笑まれて「……そ、そう、でしたっけ…」とごくりと唾を飲み込んで、もう読めそうにない本をパタリと閉じた。

「読書中にすみません」と微笑んだ降谷さんは一ミリも申し訳なさそうには見えなくて「あ、いえ、こちらこそ…気付くのがおそくなって…」と頭を下げて、そのまま顔を上げられなくなった。

な、何でここに…というか二度目ましてって、あの日のこと言ってる…?いや、誰かと勘違いしてるだけだ。きっとそう。降谷さんに限って勘違いとか有り得なさそうだけど、もうそう思うしかない。私の精神衛生上。

ぎゅううっと膝の上で手を握り締めていれば「怖がらせるつもりは無かったんです。すみません。一つ、確認をさせて欲しくて」と降谷さんの静かな声が響く。「こちらに、見覚えはありますよね」とテーブルの上にスッと出されたのは見覚えがありすぎる封筒。

疑問形ではない質問にひくりと頬を引き攣らせながら「い、いやぁ…はじめて、見ました…」と何とか声を出す。そんな私に「そうですか…では、内容を読み上げるので心当たりがあったら教えてください」と悪魔のような微笑みを浮かべた降谷さんは封筒を開ける。

ちょっと待って、本気?そんな公開処刑、有り得ます?サァッと顔から血の気が引いて「えっあっ、あの、いや、」と必死に止めようとするけれど降谷さんはにこりと微笑んですぅっと息を吸う。

綺麗な薄い唇が言葉を紡ぐ瞬間、耐えきれずに立ち上がった。「み、見たことあるかもしれないです!」と羞恥に耐えられず真っ赤な顔で待ったをかけた私を見て降谷さんが「そうですか。ちなみにどこで見たのかお伺いしても?」と笑う。

こ、怖すぎる…もうだって分かってて私の口から言わせようとしてるじゃん!さすが降谷さん!私のことも色々調べ終わってるってことですよね分かります!大人しく椅子に座り直して「えっ、と…どこ、だったかなぁ…」と視線を逸らす。

ぐるぐると頭の中で答えを考えるけれど、今の最適解が分からない。キャパオーバーした私の頭は涙という形で、爆発しそうな感情を吐き出した。「ぁっ、ちが、ごめ…なさ…っ、」と溢れてくる涙を手で拭う。

喉が引き攣って声が出ない。何か話さないと、と思えば思うほど涙が溢れて止まらない。そんな私に降谷さんが慌てたように立ち上がる。隣に腰を下ろした降谷さんが「すまない。泣かせたかった訳じゃないんだ。怖がらせて、すまない」と申し訳なさそうに眉を下げてハンカチを私の頬に押し当てる。

背中を撫でられるけれど涙が止まらなくてひっく、ひっく、と子供のようにしゃくり上げていれば「……降谷ちゃん」と低い声が聞こえてきてビクリと肩が跳ねる。その声に「……悪かった」と降谷さんが謝れば「降谷ちゃんがどうしても自分が行くって言うから任せたのに泣かせてちゃ世話ないでしょ」とため息と共に萩原さんの声が響く。

あまりの衝撃にぽかんと開いた口が塞がらない。ぴたりと涙も止まってしまって「ぁ…え、…?」と目を瞬かせてれば「ごめんね。圧強くてびっくりさせちゃったよね」とふわりと笑った萩原さんが向かいの席に腰を下ろして「あ、この本この間大賞取ったやつだよね?俺も気になってたんだ〜!どう?面白い?」とテーブルの上に置きっぱなしだった本を見て目を輝かせる。

「ぇ…っと、まだ、途中で…」と返せば「えっ、じゃあ読書の最中に降谷ちゃんが邪魔しちゃった感じ?ねえ、降谷ちゃん。そういう強引なのマジ良くないよ。ごめんね」と萩原さんがジト目で降谷さんを見てから私を見てへにゃりと眉を下げる。

「い、いえ…そんな、」とふるふる首を横に振れば「優しいんだね」と萩原さんがとろりと眦を下げて微笑むから、突然の甘い微笑みに私の心臓がぎゅんと音を立てた。
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