気の迷い、と言われたら否定できない。自分でもどうしてこんな意味の分からないことをしてしまったのかと思っているくらいだ。いくら作品にハマったからと言っても「登場人物にガチの手紙を書くのはどうかと思う…」と机の上に突っ伏して項垂れた。
友人に勧められて、まんまとハマってしまった作品だったが香澄が良いなと思った人は、ものの見事に死んでいく。友人からは「なんか死神とか呪いみたいだね!コナンくんと一緒じゃん!」なんて言われる始末である。
非常に不名誉、というかそんな疫病神にはなりたくない。「なんで…みんな死んじゃうの…」と肩を落とす香澄に友人が勧めたのは二次創作だった。香澄が夢にまで見た推しが生存している世界。それが引き金になってしまった。
推しを守るべくして筆を取った香澄は、まず萩原に手紙を書いた。机の引き出しに入れて放置してみること、数か月。当然、届いている訳が無い。綺麗に封がされたまま、引き出しの中に鎮座する手紙を見て「届くわけ、無いよね…」と肩を落としたけれど、懲りずに再び手紙を書いた。
松田宛の手紙、諸伏宛の手紙、伊達宛の手紙。萩原の時と同様にイメージカラーに合わせた封筒と便箋を選んで、丁寧に字を書いた。最初の文字は緊張で震えていて、後半の文字は泣きすぎて震えていた。
ポタポタと便箋の上に涙が落ちて、文字が滲んだ。文字にすることで、彼らはもういないのだと突き付けられるようで「なんで、みんな死んじゃったの…」と益々香澄の目からは涙が溢れた。
そんなに泣くくらいなら止めればいいものを、香澄が止めることはなかった。そうして、数年後。当然、届くはずが無い手紙は、相も変わらず引き出しの中に鎮座していた。
「もう、ここまで来たら降谷さん宛も書こ…」と筆を取って想いを書きしたためる。いつにも増して止まらない涙は、先日、彼らがピックアップされた回を視聴したからだろう。何て影響されやすい女なんだと、自嘲しながら完成した手紙を引き出しにしまう。
「降谷零さんも、皆も、しあわせに、なってほしいなぁ」と呟いて名残惜しそうな顔で引き出しを閉じてから香澄は部屋を出た。引き出しの隙間から零れた淡い光に、香澄が気付くことは無い。
そして、その数日後に香澄が住んでいたマンションが爆発するなんて、一体誰が想像しただろうか。