任せてって、言ったでしょ

(Side:萩原)

「一旦交代。私が見とくから、ちょっと休憩でもしてきな」と笑った香澄ちゃんの姿が、最期だった。あの日の爆発音が、今でも耳に残って離れない。何度も夢に見た。何度も泣いた。何度も、何度も、何度も。香澄ちゃんを思い出さない日は無かった。

「ハギ、吸いすぎ」とため息を吐いた松田をぼんやりと見る。あの日から、タバコの本数が増えた。俺の肺を満たしていく煙は、あの日香澄ちゃんを襲った黒煙だ。俺を蝕んで、いつか俺を殺す、その日まで。

「香澄ちゃんは、もっと、苦しかったんだろうな」と吐き出した声は情けなく震えていた。何かから逃げるように酒を飲み、タバコを吸い、そのまま気絶するように眠りにつく。そんな日々が続いたある日の朝、微かに違和感を覚えて首を傾げた。

何かがおかしい、と本能が告げている。部屋の中を見回しても、自分の体を見ても、おかしな所はどこにも無い。気のせい、なのだろうか。「何か、変なんだよなぁ…」と呟きながら携帯を開いてぞわりと肌が粟立った。

携帯に表示されたのは『11月1日』の文字。そんなはずは無い。そんなはずは無い、と思っているのに。震える手で香澄ちゃんの連絡先を開いて、電話をかける。2コールの後、ぷつり、と音が途切れて声が聞こえた。

「もしもし、萩原?朝っぱらから何の用?」と面倒そうな口ぶりは間違いなく香澄ちゃんだった。「香澄ちゃん、」「なに?」「香澄、ちゃん」「うん。だから何って」とただひたすらに名前を呼び続ける俺に怪訝そうな声が返ってくる。

きっと今頃眉間に皺を寄せているんだろう。表情が容易に想像できてしまった。今度こそ、香澄ちゃんを死なせない。俺が、絶対に守ってみせる。そう心に誓って、迎えたのは香澄ちゃんが亡くなったあの日。

「俺に、任せて」と笑った俺に香澄ちゃんは驚いたように目を見開いてから「よろしく」と笑う。もう同じ過ちは繰り返さない。二度目ましての爆弾なんて、怖くも何ともねぇ。

すいすいと解体を進めて、以前と同じように一度タイマーが止まる。ここからだ。配線の中に隠れていた遠隔のコードを切り、解体を進めていく。黙々とコードを切って、爆弾を完全に沈黙させる。

あの日と同じように俺の前にやって来た香澄ちゃんに「任せてって、言ったでしょ」と俺はウインクをしてみせた。
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