三分ありゃ十分だ

(Side:松田)

「捜一は管轄外でしょ」と俺を押し退けてゴンドラへ乗り込んだアイツは「あと、よろしく」と電話の向こうで笑った。ヒュッと息が詰まって、俺が言葉を発するよりも先に、アイツが乗っていたはずのゴンドラが吹き飛んだ。

この瞬間を、俺は生涯忘れることは出来ないだろう。アイツの声が、耳に残って離れない。アイツの笑った顔が、瞼の裏に焼き付いている。あの日の通話の記録を、俺は今でも消すことができない。

繋がらないアイツの連絡先を、いつまでも残している。ふう、と吐き出した紫煙が、ゆらりと揺れて宙に舞う。あの日、アイツもこんな風に宙に舞って消えていったのだろうか。零れた舌打ちと、間髪入れずに火を付けた二本目のタバコ。

「吸いすぎじゃね?」と苦笑いを零していた萩原に「テメェが人のこと言えんのかよ」と返したのはつい最近だ。萩原も、アイツがいなくなってから酒とタバコの量が目に見えて増えた。それでも「俺よりマシか」と自嘲めいた笑みが零れる。

暇があればタバコを吸って、家に帰ると浴びるように酒を飲む。気絶するように眠りについても、夢で見るのはあの日の光景。飛び起きて、再び眠る気にはなれなくてタバコを吸いながら朝を迎える。素人目に見ても健康に良いはずがなかった。

いつものようにタバコを吸い、酒を飲み、気絶するように目を閉じる。嫌な夢を見ることなく、あの日以来久しぶりに朝まで眠れたな、と驚きながら体を起こして違和感に気付く。その違和感が何なのかは分からないまま登庁して、ありえない光景に目を疑った。

「お、陣平ちゃん。おはよ」と笑う萩原の隣で「おはよ、松田」と笑う、香澄の姿。今この瞬間が夢なんじゃ無いかと、自分の頬を抓ってみても変わらない。けれど「今日から捜一でしょ。頑張ってね」と笑った香澄の言葉で朝の違和感に気が付いた。

「……ああ、そうだな」といつも通りを装って返した俺は、静かに拳を握り締めた。二度とアイツを失わせない。俺が、絶対にアイツの命を守ってやる。その誓いを果たす為なら、何だってしてやる。

「もう一つの爆弾は、お前に任せる」と驚いた顔をする香澄の頭をくしゃりと撫でて、俺はゴンドラに乗り込んだ。「三分ありゃ十分だ」と笑った俺は静かにコードを切った。アイツを奪っていった犯人は、絶対に俺が捕まえる。
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