ひとしきり楽しんだ後に待っているのはお待ちかねのお土産タイム。「一個だけだよ」と萩原から言われた幼女は難しい顔をして欲しいものを吟味していた。
「決まったか?」「まだ!」「おー、悩め悩め」と真剣な幼女の横で松田がケラケラ笑えば「いっこ…むずかしい…」ときゅうっと眉間に皺を寄せて呟くから、肩を竦めた萩原が幼女の隣にしゃがみ込む。
「香澄ちゃん、今日の一番欲しいものを選んでおいで。二番目は次、三番目はまたその次に来た時に買ってあげるから」と小さな頭をぽんぽんと撫でてあげれば「つぎもある…?」と不安そうに瞳を揺らすから「モチのロンよ〜!香澄ちゃんがもう行かなくていいって言うまで何回でも来ようね」と言えば「ほんと!?」と表情がパッと輝く。
「本当。約束だよ」と指切りをすれば、幼女は先程までとはうってかわって楽しそうにお土産を選び始めた。幼女が両手でぎゅっとぬいぐるみを抱えている姿を見た松田が「決まったか?」と声をかければ「きまったぁ!これ!」とドヤ顔でぬいぐるみを差し出してくる。
「おー、いいんじゃね。よし、買いに行くか」と幼女の手を取って歩き出した松田がレジへとぬいぐるみを置いて財布を出す。足元の幼女の頭に手を乗せてちらりと視線を落とした松田はぎょっと目を見開いた。先ほどまで満面の笑みを浮かべていた幼女は真っ青な顔で唇を噛み締めて、松田のズボンを震える手で握り締めていた。
「おい、香澄。どうした?」としゃがみ込んで顔を覗き込めば「なんもない…」と小さな手が首に回る。「あの、大丈夫ですか?」と後ろに並んでいた子連れの父親が心配そうに幼女を見つめていて「すんません。大丈夫っす」と軽く頭を下げた松田が会計を済ませてその場を離れる。
「お、買えた?…って香澄ちゃんどうしたの」と合流するなり険しい顔で駆け寄ってきた萩原に事情を説明すれば「ッ、もしかして、その人しゃがんでた?」と声をかけてきた父親の話に萩原が異常に食いつく。
「あぁ。コイツと同じくらいのチビがいたから…」とそこまで口にして松田もハッとした。幼女が知らない男に声をかけられた時とよく似たシチュエーションだった。かたかたと震えて声も出さずに必死に泣くのを堪える幼女の顔を見ようと少し体を離そうとすれば「じんっぺーくん、やだ…っやだぁ…!いかなっ、でぇ…!」と泣きながら首にしがみついてくる。
「大丈夫だ。どこにも行かねぇよ。ずっと一緒にいるから、大丈夫だ」と背中を撫でて根気強く声をかける。「香澄、こっち見ろ」と再び体を離せば服をがっちり握り締めたまま涙で濡れて真っ赤になった目が松田を見る。
「目真っ赤じゃねぇか。鼻水も垂れてるし。ほら、鼻かめ」とティッシュを幼女の鼻に押し付けて鼻水を拭った後、ハンカチで目元を軽くとんとんと叩く。「俺もハギも一緒だ。怖いことは何もねぇ」と額をこつんとぶつけてやれば「こわいの、ない…っ、?」とひっく、ひっく、としゃくり上げながら不安そうに瞳を揺らす。
「俺が全部やっつけてやる。大丈夫だ」と笑いかけて「俺が喧嘩強いって知ってるだろ?」と片手で幼女のふくふくほっぺをむぎゅっと潰せば「んむぅ」と間抜けな声が零れる。
「香澄ちゃん、ジュース飲もっか。喉乾いたねぇ」と萩原がまだぐすぐすと鼻を鳴らしてはいるものの少し落ち着いてきた幼女の頭を撫でて、パックに入ったりんごジュースを差し出せば、ゆっくりではあるがちゅうちゅうとストローで飲み始める。
「おいしい?」と萩原の問いかけに「…ぅん」としょんぼりしながら返す幼女の姿に耐えられなかった萩原が「香澄ちゃん、今日は特別にアイスもう一個食べちゃおう」と頭を撫でる。
「あいす…?」とその目がきらりと少し元気を取り戻して「そう。俺と陣平ちゃんと3人で買ったら色んな味食べれるよ」と追撃の如く続けられた萩原の言葉に「たべっ、たべる…!」と幼女の目が輝く。
「アイス何味にしようか?」「ちょこ!」「さっき食ったろ」「じんぺーくんはいちごね!」「俺バニラ」「ねえー!じんぺーくんいちごなの!」「ははっ、じゃあ俺は?」「けんちゃんはばにら!」「何でだよ。俺と交換な、ハギ」「ちがぁうの!じんぺーくんはいちご!」ときゃらきゃらと楽しそうに笑う姿に二人はホッと息を吐いた。